○月△日 天気:快晴(降水確率0.23%)
 様の学校に同行させていただきました。様は授業中も熱心なご様子で、いやはや感心でございます。
 ところで私は初めて学校に行ったのですが、なかなか興味深いものがあります。セブンも毎日、網島様とこのような感じなのでしょうか。
 フォンブレイバー03





 は昼休みになると友人に「ごめん、今日昼練なんだ」と告げ教室を出た。

 姿見以上の大きな窓が並ぶ廊下を、人のにぎわう方向とは逆に歩いていく。そして、他と何ら変わりないひとつの窓の前で止まったかと思うと、周りに人がいないことを確認してからそれを開けて、迷うことなく枠に足をかけた。

 外に落ちる――かと思いきや、そこには電車の連結部のように狭い足の踏み場があり、その先に古びた引き戸があった。後ろ手で窓を閉めると。ブレザーの胸ポケットからタグのついた鍵を取り出し、は戸を開けた。

 中に入るとすぐに戸を閉めて、肩にかけた鞄からサードを取り出しマナーモードを解除。はふうと息をつく。

「今は話しても平気だよ、サード」
『出し抜けの質問で申し訳ありませんが、この部屋は一体……』
「写真部の部室だよ。こう見えても部長なんだ」

 ほとんど帰宅部だからたいしたことじゃないんだけどね、と付け加えては「503」の変形コードを押し、サードを机の上に置いた。

『部長とは! 初耳です』
「そういえば、サードとプライベートな話をすることってほとんどなかったね」

 初めて見る暗室を興味深そうに隅々まで見回すサードの様子をほほえましく見つめながら、は鞄からお弁当を取り出し、「いただきます」と小さく手を合わせた後箸をつけ始めた。そんな彼女に、サードは首をかしげる。

『練習はよろしいのですか?』
「……あれ、嘘」

 は口の中の物を飲み込むと、申し訳なさそうに肩をすくめた。

「サードもずっとマナーモードだと息苦しいだろうし、少しでも解除できる時間があればって思って……。ここなら外から見えないし、めったに人もこないし」

 いざとなれば充電もできるし、と足元に視線をやりながら言う。そこには機材のプラグがささったコンセントがあった。

『わ、私のためにわざわざ……!』

 サードは感動してとにかく『ありがとうございます』と頭を下げる。

「サードのことを思えば当然なんだから、いいよいいよ!」

 あわててそれを制止させようとするに、やめようとしないサード。終わりの見えないやり取りを繰り返していると、二人はバイブ音ではたと我に返った。

「私だ。もしもし」
さんっ、早くアンカー来てくださいよぉぉお!』

 耳をつんざくような声には思わずスピーカー部分から身を遠ざけた。

『……網島様、ですね』

 直接聞かなくとももれてくる声にサードは苦笑する。

「な、なに、どうしたのケイタくん」
『桐原さんがどう見ても機嫌悪くて怖いんですよ!!』

 電話越しに「出会って間もないときの比じゃないって!」と悲痛な叫びをあげるケイタ。わずかに声が反響しているのを聞くとどうやら彼はトイレにでも避難しているらしい。

「……ごめん、私まだ授業、あるんだ……」
『網島様、申し訳ありませんがバディに遅くなる旨伝えておいてください』
「ごめんね、あとちょっとだから!」

 待って切らないで、と泣きそうな声が聞こえたがもう昼休みも終わる。は最後に「ごめん!」と言って返事を待たずに通話を切った。

「……大雨洪水警報でも出れば帰れるんだけど」
『残念ながら本日の降水確率はゼロパーセントです』

 それを聞いてはあ、とため息をつくとはリトラクトフォームになってもらったサードを手に取る。

「こんな感じの昼休みだけどいい?」
『充分すぎるほどです! 様、ありがとうございます』

 にこりとするサードにつられ、も嬉しそうにはにかんだ。





裏側ソラリ
ごめんなさい、暗室以外の隠れ家的スポットが思いつきませんでした。