○月△日 天気:晴れ
 今日はサードとの一日目。バディになるわけじゃないけど、サードが快適に過ごせるよう注意していきたいと思います。
 開発部 




『朝ですよ、様』

 朝目覚める時間となりサードはに優しく呼びかけたが、彼女が起きる気配はない。さてどうしたものかと考え込むとサードは自分の持つ音声データを漁った。

『「っ!!」』
「はいぃぃいぃ!!!」
『おはようございます、様』
「……サード、お願いだから桐原さんの音声を使って起こすのはやめて」

 心臓に悪い、とは冷や汗をぬぐうとうなだれた。





モーニング・ハイ





ーっ」
「な、なにお父さん朝っぱらから暑苦しい」

 顔を洗いに自室を出ると彼女の父、が目を輝かせながら階段を上ってきた。

「ほら、おまえ学校は携帯禁止だろう? だから登校中は私が預かってあげるよ!」
「いや、桐原さんに『の手に渡ることがないようにしろ』って言われたからやめておく。それにお父さんに渡すと何するか分かったもんじゃないし」

 彼女の通う高校は携帯持ち込み禁止で、授業中鳴ろうものなら犯人探し、見つかろうものなら教頭と生活指導とで三者面談そして取り上げ。しかし学校での携帯の扱いについて手馴れている彼女にとっては桐原の方がよっぽど恐ろしかった。

「朝食はできてるから支度が整ったら来なさい」
「うん」

 家は父子家庭。母親は数年前に事故で亡くなっている。その事故というのがネットとつながっており、が正式にアンダーアンカーに入ったきっかけとなっていた。

 顔と歯を洗い部屋に戻ると、彼女はサードをアクティブフォームへと変形させてから制服に着替えようと寝巻きを脱ぎ始めた。するとサードは慌てだした。

『あ、あの、様』
「どうしたの?」

 切羽詰まったサードの声に問題発生かとシャツを脱ぎかけたまま身構えるだったが、彼から発せられたのは予想だにしない言葉だった。

『外へ出ていましょうか?』

 は唖然として中途半端な姿勢のまま固まってしまった。

「えっと、あ、そうだね」
『それでは私は部屋の外に出ていますので着替えが終わりましたらお呼びください』

 彼女があいまいに返事をしながらドアを少し開けてやるとサードは机の上からぴょんと飛び降りて『それでは失礼します』と隙間から出て行った。

「……は、恥ずかし……!」

 私としたことが、とは部屋で一人悶えた。

*

 着替え終わり鞄を持って朝食の席に向かうとすでにはトーストをかじっていた。

「学校ではどうする? マナーモードでも平気?」
『はい、構いません』
「だから預かってあげるって〜」
『それは遠慮しておきます』

 学校でのことについて話し合う二人の会話の中に紛れ込むだったが、サードも何か身の危機を感じるのだろう、むなしくも却下されてしまった。

 しょんぼりとする父親を無視しつつ、はジャムを塗ったパンにかじりつくと横においてあった新聞に手を伸ばした。

「首都圏大規模停電、かあ」
『昨晩は大変でしたね』
「復旧して良かったけど、何があったんだろう」

 パンを飲み込むと牛乳で流し込み、出来立ての弁当とサードを鞄に入れるとは家を出た。

「ところでサード、なんで桐原さんの音声持ってたの?」
『いざというときに使えないかと思いまして』
「……使えたね」
『そのようです』

 学校までの道を歩きながら、は一発で起床しようと誓ったのだった。