○月×日 天気:晴れ 並列分散リンクの責任で桐原さんが謹慎処分を受けました。ケイタ君の分もまとめて、とのことで少し心配でしたが、思っていたより軽い処分でよかったです。 でもなぜか謹慎の間私がサードをあずかることになりました。 開発部 「……なんでですか?」 「桐原さんの任務への気持ちを抑えるためです」 他に質問は、と聞く美作にはちくちくとした視線を背に受けつつ「ありません」と弱々しく答えた。 その日は突如来たり 「サードのメンテナンス、どうですか支倉さん」 「あともうちょっとだよー。あ、そうそう。ハカセが『今日は遅くなる』って」 ハカセとはの父、のあだ名で「博士っぽい」とのことからその名がついたのだった。娘と揃って開発部に所属するだが、おそらく今回の件について水戸と話し合いをするのだろう。はわざわざすいません、と頭をちょいと下げて近くの椅子に腰を下ろした。 「謹慎中はちゃんがサードを預かるんだって?」 「そうなんですよ。まあ私は構わないんですが……」 苦笑を浮かべて言葉を濁すだったが、その先は言わずとも支倉には分かった。 「仲悪いもんねえ、二人とも」 「私は嫌いってわけじゃないんですが、向こうがこっちを好いていないんだと思います」 心配なのはサードのバディ、桐原のことだ。口論を交わすなどの対立は起こさないものの、不思議とと桐原の相性は悪かった。彼女いわく「何も覚えはない」とのことだが、はたから見ればに対する桐原の態度は何か過去にひと悶着あったのではないかと聞きたくなるようなものなのだ。 「サードはどうだ」 話の中心人物がやってきては思わず居住まいを正した。「もうすぐです」と何事もなかったかのように平然と答える支倉の声に桐原とはサードへ目をやった。それまで何も映さなかった画面にノイズが走ったかと思うと、ぼんやりとサードの表情パターンが浮かび上がってきた。 「サード!」 『おはようございます、バディ』 サードはゆるりと立ち上がるとコネクタをはずし『お手数おかけします、支倉様、様』と一礼した。 「調子はどう?」 『おかげさまで好調です』 「起きたばかりですまないが……サード、俺達はしばらく謹慎だ」 『……え?』 突然の告知に目覚めたばかりのサードは戸惑った。 「当分の間は網島とセブンが任務を引き受けることになる」 『そう、ですか』 サードの並列分散リンクに関しての記憶は消去されている。謹慎の理由に心当たりがないということになるがそれを聞ける雰囲気でもない。サードのことだから自分が何かしたのかと気にしているだろうと心配しながらは言いにくそうに「それでね」と声をかけた。 「謹慎の間は私がサードを預かることになったの。内勤だからアンカーにいる間はいつもどおりだけど……」 「……そういうことだ」 声が不満だということを訴えている。は肩身の狭さを感じて思わず視線をブーストフォンシーカー・スピーカーの方へと向けた。 『様がですか』 「え? あ、うん」 サードの少し上ずったような声に驚いたは彼と視線がばちりと向き合う。先に気まずそうに顔をそらしたのはサードの方だった。 「サードを地面に落としたりどこかに置き忘れたりでもしたら……」 「そ、そんなことしませんっ!」 「それと、の手には渡らせるな」 「父には細心の注意を払います!」 ここは軍隊かとでも言いたくなるやり取りだった。の勢いに任せた返事に納得いったのか、桐原は「何かあったら連絡しろ」と告げると身を翻し出て行った。――とは言え、彼女自身も支倉に負けず劣らずのメカ狂い。サードを傷つける行為などするはずはないのだが。 桐原の背が完全に見えなくなるとほっと息をついてはしゃっきりと伸ばしていた背筋を緩めた。 『申し訳ございません、バディは様のことを誤解している節があるようなのです』 「サードは謝らなくてもいいんだよ」 頭を下げるサードに苦笑するとは少し腰をかがめてサードと目線を合わせる。 「とにもかくにも、今日からしばらくよろしくね、サード」 『こちらこそ宜しくお願いいたします、様』 は人差し指を、サードは右手を差し出し、二人は握手をした。 |