「なんかうるさい……」

 仮眠室で隊服のまま寝ていたはむくりと起き上がった。その腕の中にはデジタマが一つ。彼女の腹の上で寝ていたドリモンは転がり落ちて目を覚ました。




beyond the flame



「何かあったんですかあ」

 眠たい目を手袋をつけた手でこすりながら司令室へと入ってきたに、ヨシノがぎょっとして近寄ってくる。

、なんでデジタマ抱えてんのよ」
「あれ、そういえば」

 夜遅くに呼び出されて動き回っていたせいか、どうやら彼女は任務から帰ってデジタマの返還作業をせず、抱えたまま眠ってしまっていたようだ。

さん……」

 久々に会うの姿に、金髪の美少年――トーマはやや呆れたような声で言った。当の本人は「帰ってたんだ〜お帰りなさいトーマ、ガオモン」とにこにこしていたのだが。寝ぼけているのもあるだろうが、マイペースすぎる。DATS一同はため息をついた。

「……それで、報告書を拝見しましたが、やはりここしばらくのデジモン発生件数は異様だと思います」
「EUではこれほど頻繁ではなかったと?」

 薩摩の問いに、トーマは静かに頷く。

 真面目な話をしている二人だったが、トーマの背後で何か言いたそうにマサルがうろうろとしだした。ちらちらと来る彼の視線に、薩摩は仕方ないと言った様子でマサルの紹介をしようとしたのだが、トーマ自身はどうでもよさそうだ。

 そんな彼の態度が気に食わないのか、マサルはいきなり喧嘩腰。その言い分は「俺の方が三日だけでも先輩だ!」というものだったが、そのとんでもない勘違いに薩摩とクダモンは思わず顔を見合わせた。

「マサル……言っておくが、トーマこそお前の先輩だ」

 その言葉に、マサルは驚いて薩摩とトーマの顔を見比べた。

「トーマは元々日本支部に所属してて、デジモンの取締りと転送機開発に取り組んでたの」

 EU本部からの派遣依頼が来たのが六ヶ月前。そして今日、トーマはEUでの着任を終え、日本支部へと舞い戻ってきたのだった。

「え、でもこいつ、どう見たって俺と同じくらいだろ?」

 マサルは困惑するが、その反応も無理はない。十四歳の少年がこんな科学の最先端を行く機械の開発に携わるなど、にわかには信じがたい。

「世の中には天才って人種もいるってことだよ」

 そこへ、いつの間にやらデジタマの転送を済ませたがドリモンを抱えて口を挟んできた。「天才ぃ?」といぶかしげに繰り返すマサルに、作業を手伝い終えた黒崎・白川コンビも会話に参加してくる。

「そうそう! トーマ様はストックホルム王立科学大学を十三歳で、しかも首席で卒業したんだもの!」
「しかも、ノルシュタイン家はオーストリア屈指の名門貴族!」

 きゃあきゃあと盛り上がる二人とトーマの肩書きに、マサルはうんざりとした。

「パートナーのガオモンはDATS内で一、二を争う戦闘能力の持ち主。いわば最強のパートナーデジモンということだ」

 そして更にクダモンが補足する。

「いち、にぃ〜……?」
「おれは三位くらいには入ってるといいな〜」

 うまく数字が数えられていないアグモンの一方、ドリモンは特に対抗心を燃やすわけでもなく、のんびりしている。彼とガオモンは同じ獣種族同士だからか仲は良好だ。

 ――天才のテイマーに、トップレベルの実力を持つパートナー。つまり、トーマとガオモンは完璧なコンビなのだ。

 同じ隊員同士仲良くするようにと薩摩が言うが、マサルはどこか不満そうな顔でトーマを見ていた。

 世間一般からしてみればいわゆる「不良」の類に属するマサルに、天才でエリートなトーマ。相反する二人が仲良くなるのは時間がかかるだろう。のんびりそう思って二人を眺めていただったが、次にトーマの口から飛び出た言葉は予測が付いていなかった。

「僕は、無駄だと思いますがね」
「何だと?!」

 声を荒げるマサルを横目で一瞥すると、トーマは続ける。

「DATSにとって彼の存在がプラスになるとは思えません」

 彼はマサルの存在を受け入れるどころか、否定した。はぎょっとすると、それは言いすぎじゃあないかと冷や汗を流した。嫌な予感が、する。

「負けるのが怖いのか?」

 マサルの口からついて出たありがちな言葉。だがそれは、トーマを挑発するには十分だった。




 そして、場所はトレーニングルームにあるリングへと移る。

「マサルがリングに立っても、『試合』って言うより『喧嘩』って感じ」

 が思ったままに呟くと、ドリモンとララモンが賛同するようにうんうんと頷く。

「喧嘩とスポーツはまた違うから、どっちが勝つか見えない勝負ね」

 マサルがコカトリモンを素手で殴った現場を見ていたララモンは、特に贔屓目をすることなく冷静に二人を見つめる。それに対してアグモンが「アニキが勝つに決まってるだろー!」と騒ぎ出したのだが、ドリモンが軽く流していた。

「怪我が少ないことを祈るしかない、かな」

 マサルがヘッドギアを着けないと言い張るのを横目で見つつ、は救急箱を抱え直して「ま、無理かもしれないけど……」とひとりごちた。

 マサルとトーマの準備は整った。それを確認したが目配せすると、ララモンが戦いのゴングを鳴らしたのだった。

 はじめの一発はマサルから放たれた。しかし、その勢いもむなしく、トーマにあっさりよけられてしまう。

「力任せだな。何の戦略もない」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃ、ねえっ!」

 続いて繰り出されたのは力強いアッパー。だがこれも、さらりとよけられる。

「君はなぜDATSに入ったんだ?」
「決まってんだろ、勝つためだ!」
「何に?」
「強い奴に、だ!」

 トーマはマサルの拳を華麗によけながら淡々と話す。その余裕たっぷりな態度が余計にマサルの闘争心へ火をつけた。

 だが次の瞬間、それまでパンチをよけ続けていたトーマが、マサルの拳をはじいた。そして、ついにトーマから強力な一撃が鳩尾へと放たれた。マサルは耐え切れずに腹を抱えこむ。

「DATSの一員たる者、責任を持って果たさねばならない使命がある。それを、『強い奴に勝つため』だなんて――呆れた話だな」

 とどめの一発。リングに伏す彼を見下ろし、トーマが静かに言い放つと、十カウントは終了し、ヨシノがトーマの勝利を声高に告げた。

「粗暴で低俗な人間は、DATSに必要ない」

 最後にそう告げて、トーマがリングから去ろうとした時。待てよ、と小さくうめくような声が聞こえた。

「まだ、終わってないぜ」

 ゆらり、とマサルが立ち上がるのを見て、トーマは顔をしかめた。

「勝負はついただろう。試合は終わりだ」
「試合? そんな遊びなんかじゃねえ。俺とお前の喧嘩だ!」

 そう言いきるや否や、マサルはトーマの頬に一発パンチを決めた。不意打ちのそれに、トーマはよろめく。

「勝負はどちらかが音を上げるまで、終わりじゃねえんだよ!」

 トーマの無言は勝負続行への同意の合図か。お互いの拳は交差し、そして――




「トーマ、痣できちゃうよ」

 更衣室から出てきたトーマに、は小さい氷のうをふって見せた。しかし、彼は受け取ろうとしない。横のガオモンが心配そうにマスター、と小さく呟く。

 プライドの高い彼のことだ、おそらくマサルのパンチを受けてしまったのがショックだったのだろう。そして、まだその事実を素直に認められずにいる。ましてや殴られた箇所を冷やしている姿など相手には見られたくないのだろう。

 だが、そんなことは分かりきっていたが困ったように笑って「司令室入る前までで良いから」と言うと、彼はようやく小さく頭を下げてからそれを受け取り、患部を冷やしはじめた。

さんは、彼の入隊に賛成したそうですね」

 口を開いたかと思えばそのことか。結局マサルのことを意識してるんだろうなあ、とのんびり思いつつ、は頷く。

「確かに推薦したけど……単にデジヴァイスを託されたからってだけじゃないからね」

 はその背を廊下の壁に預けると、ドリモンを抱えなおした。

「彼の、前に進む勇気。出会ったばかりのアグモンと見せたコンビネーション。私たちにはないものを持ってる」
「……そうですか」

 それを聞いても、やはりトーマは納得いかないようだった。口には出さないが、不満そうなのが見て取れる。

「それで、トーマはマサルのこと、どう思うの?」
「どうって……さっき言ったとおりですよ」

 そう簡単に考えは変わらない、か。はそう心の中でため息を付いて「引き止めちゃってごめんね」と司令室へ歩き出した。

 トーマにはトーマの考えがある。彼だって、DATSをよくしたいと思うからこそああ言っているのだ。だから、はその考えを否定するつもりはない。

 だが、今後一緒に任務をこなしていくとなると隊員同士のチームワークも必要となってくるわけで。

(……私があれこれ考えても仕方ないや)

 結局は本人たちの問題だ。彼女がひとりで考え込んだところでどうしようもない。

 気付けば司令室はすぐそこだった。はトーマから氷のうを受け取ると、腕に抱いていたドリモンの頭にそれを乗せた。

「ドリモン、あげる」
「ベッドから落ちた時にほしかったなあ」

 そんなやり取りをしつつ司令室に入ると、意図せずトーマとマサルの視線がかち合ってしまった。が、トーマが先にふいとそらしたからか、マサルはむっと顔をしかめた。そんな二人を見て、ヨシノとは顔を見合わせて苦笑を浮かべた。

「トーマ、なんか言ってた?」
「特には。とりあえず、二人の関係は悪化って感じ」
「やっぱりねー」

 漫画の中では、仲の悪いもの同士が拳で語り合って仲良くなる、なんてパターンがある。だがどうやら、それは現実では通用しないらしい。

 その時、司令室内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。

「隊長、港湾D82地区にデジモン反応!」
「デジモンの特定を開始。モニターに映します」

 デジモン、と言う単語を聞いた途端、全員が顔つきを変えてモニターへと集中した。底に映し出されたのは――プチメラモンだった。その数はどんどん増加していく。「なっ」という小さな驚きの声がマサルから上がった。

「あ、あいつはさっき俺が……」

 確かに少し前、マサルはプチメラモンを捕獲した。まだ他にもいたのか、と彼が混乱していると、クダモンが冷静にその謎の答えを提示する。

「プチメラモンは体の一部が残っていればすぐに再生し、短時間で新たな個体を増やす」
「じゃあ、今出現しているのはマサルが対峙した際に分離した……?」
「だろうな」

 クダモンは「本人にも心当たりがあるようだしな」と、苦々しげな表情を浮かべるマサルをちらりと見た。彼は床を見つめていた。意図していなかったこととは言え、責任を感じているのだろう。マサルはぎゅっと拳を握ると、ぱっと顔を上げた。

「俺に行かせてくれ!」

 ここはどうすべきかと薩摩が判断に迷っていると、「隊長、」と落ち着いた声が響いた。トーマだ。

「僕に行かせてください」
「なんだと?! あいつは俺たちの――」
「君にはメラモンを捕獲する百パーセントの自信があるのか?」
「それ、は……」

 正直な所、マサルに具体的な策はなかった。とにかく行って、なんとかして倒す。それだけを考えていた彼に、トーマの冷静な言葉が突き刺さり、返答に詰まった。

「……今回の件はトーマに一任する、良いな」

 薩摩の決定に異議を唱えることはできなかった。悔しそうにするマサルに、ヨシノをサポートに回し送り届けた薩摩はただ「トーマの戦い方をしっかり見ておくといい」とモニターを見ながら言った。

 トーマとガオモンのチームワークは、半年のブランクなどまるで嘘であるかのような完璧さを見せていた。二人はあっという間にすさまじい数のプチメラモンを倒していく。自分たちの戦い方とは違う、計算された完璧な戦略を見せつけられ、マサルは言葉を失った。

『プチメラモン、捕獲完了しました』

 任務完了の報告を受け、薩摩が「ご苦労」と短く言っていると、マサルが司令室を飛び出していくのが横目に見えた。

「止めなくていいのか、薩摩」
「放っておけ。ところで。……?」

 司令室には既にとドリモンの姿はなかった。




「はー生き返る」
、缶の中に残ってるナタデココが全部取れないよ」

 二人は堤防の上に腰掛けて、缶ジュースを飲んでいた。ナタデココ入りのジュースに苦戦しているドリモンだったが、が缶の底をぽんぽんと数回叩いてやると、ナタデココが全部出てきたのか、幸せそうな笑みを浮かべていた。随分お気楽なものである。

「……焼き魚?」

 ふと風に乗ってきてやってきたにおいに、は首をかしげた。ご飯を食べていなかったことを思い出した彼女のおなかが鳴る。においのやってきた方向をみると、湯島が七輪で魚を焼いている所だった。上から見るに、まだ火は種火状態らしい。

 そこへ、マサルがよろよろと歩いてきた。後ろにはアグモンが慌てた様子で付いてきている。一体どうしたのかと、は二人の様子を見つめていた。彼らは湯島に気付くと近くへ駆け寄った。湯島はパタパタとうちわを動かしながら「火の扱いは難しいのう」ともらした。

「種火のうちは少し風を浴びただけですぐに消えてしまう」
「そりゃ当たり前だろ」
「でも、一度燃え上がればすぐに消えることはない」

 何か引っかかるような、とは首をひねっていると、突如通信が入った。どうやらまたデジモン反応らしい。だが、トーマと、彼に付き添うヨシノは車でも現場までは10分以上かかるという。それなのに現場の近くにはガスタンク。最悪の状況だ。

「俺に任せろ! 俺なら三分で行ける!」
『はあ?』
『君には無理だ!』

 ヨシノとトーマの意見に賛同するよう、認めるわけにはいかないと、薩摩が言おうとした時だった。

「私がサポートに回ります」

 新たな声が回線に加わる。だ。しかしマサル達は彼女がすぐ頭上にいることに気付いていないようだ。

「ドルガモンと先回りして、プチメラモンをガスタンクから遠ざけておきます」
『すぐ行けるのならば、お前が……』
「ドルガモンの技との相性が悪いです。正直、捕獲できるかどうか確証がもてません」

 安全牌を選ぼうとするも、それはむなしく彼女の声で遮られてしまう。反対する声も賛成する声も返ってくることはなく、その無言を了承と捉えたはドリモンと顔を見合わせる。

「ドリモン!」
「おっけー!」

 頼むぜ、! と言うマサルの声を合図に、二人は駆け出した。




 プチメラモンは全部で三体。いつガスタンクの方へ行くかと思うと、自由自在に動き回る姿が危なっかしい。

「じゃあドルガモン、お願い」
、ちゃんと掴まっててね」

 そう言うとドルガモンは背中の翼をばさりばさりと動かし、プチメラモンへと風を吹かせた。軽いプチメラモン達はすぐに吹き飛ばされる。体の一部を分離させて増殖しないようにするには力の加減が難しいが、ドルガモンは慎重にプチメラモンをガスタンクから遠ざけていく。

 そこへ丁度、マサルとアグモンが到着したのが見えた。は「ドルガモン、もう良いよ」と言うと身を乗り出し叫ぶ。

「マサル、できる限りガスタンクからプチメラモンを遠ざけておいたから、遠慮せず暴れて!」
「サンキュー、!」

 舞台の準備は整った。後は見守るだけ。は背後のガスタンクも気にしつつ、マサルの動向に注目した。

「アグモン、ベビーバーナーだ!」
「ええっ?! でもプチメラモンには……」

 プチメラモンにアグモンの攻撃が効かないことはマサルも分かっているはず。やっても無駄なのに、一体何をするつもりなのか。

 マサルの考えが読めずに戸惑ったが、「いいから!」という強い声色に押され、アグモンは渋々ベビーバーナーを撃った。当然、プチメラモンに効いている様子は見られない。それどころか、いわゆるもらい火というやつでどんどん大きくなっているようだ。アグモンは不安になりつつも、それでもベビーバーナーを打ち続けた、

 その時、三体いたプチメラモンが一体のプチメラモンとなった。アグモンはなおもベビーバーナーを撃ちこむ。すると、プチメラモンは進化の光を放ったのだ。

「メラモンに進化した……」

 はその姿を見て呟いた。全身に紅蓮の炎をまとうそのデジモンの名はメラモン。成熟期の火炎型デジモンだ。

「し、進化しちゃったよ〜アニキ!」

 言わんこっちゃない、とおろおろするアグモン。しかしマサルは「これでいいんだよ」と不敵な笑みを浮かべている。どうするつもりだと考え込もうとした時、ははっとして顔を上げた。

「プチメラモンに対しては手ごたえがなく、攻撃がしにくかった。でも、メラモンなら……!」

 火は、種火の内は風に吹かれるとすぐ消えてしまう。だが一度燃え上がれば――。マサルは湯島の話からヒントを得たのだ。だがそれでも問題はまだ残っている。

「でもメラモンは炎の属性だよ。どうするつもりだろう」

 心配ではあるが、近くにガスタンクがあることに変わりはなく、二人はその場を離れることができずに再びマサルに視線を落とした。

「来いよ、ぶちのめしてやるぜ」

 そう言ってマサルは挑発に乗って向かってくるメラモンへ拳を振りかざし、殴りかかった。大きく燃え上がる体へその拳が炸裂する。しかし、今度は相手の体が消えることはない。

 そして、マサルの拳にデジソウルが宿った。――来た。彼はその光に勝機を見出し、笑みを浮かべた。

「デジソウル、チャージ!!」

 輝かしい進化の光。マサルのデジソウルがアグモンをジオグレイモンへと進化させる。

「行っけええ!!」
「メガバースト!!」

 ジオグレイモンの炎が、メラモンを呑み込んでいく。同じ炎でさえ打ち破る、爆発的なその威力。やはり強い。は呆気にとられて一瞬言葉を失ったが、メラモンがデジタマに戻ったのを見てはたと我に返ると、ほっと息をついた。




 が地上へと戻ると、マサルとアグモンは満面の笑みを浮かべてデジタマを回収していた。

「お疲れ様、マサル」

 そう言うとマサルは照れくさそうに笑った。しかし、メラモンを倒せたと言うのに気に食わなさそうな人物が一人いた。

「今回のは運が良かっただけだ」

 トーマだ。だが今のマサルにはそんな言葉は聞かなかった。

「見ただろ、勝負は最後まで諦めない奴が勝つんだぜ」
「話にならない! 計画や戦略もなく、ただ勢いだけで毎回乗り切れるとでも?」

 またか。ヨシノとは顔を見合わせてため息をついた。どうやらマサルとトーマが仲良くなるのにはまだまだ時間がかかるようだ。

「DATSの先行きが不安だわ……」
「はは……」

 女子二人がげんなりとしている一方、男子二人は車中でも同じようなやり取りを交わし続けていた。


*


「まだやってるの、あの二人」
「よくやるわよねー」

 DATSに戻ってもぎゃあぎゃあと言い合う二人に、彼女たちは早くも慣れた様子だったが、一人、顔をしかめている者がいた。隊長の薩摩だ。

「いい加減にしろ!!!」

 その声は司令室いっぱいに響き渡り、後に続くのは静寂の間だった。 

「久々だわ、『鬼の一喝』……」

 普段物静かな人間が怒ると、怖い。薩摩もその例外ではなかった。

 ヨシノはきーんとする耳を押さえて、ララモンは目まで回している。の腕の中に収まっていたドリモンは驚きのあまりに飛び上がり、彼女の顔にへばりついていた。

 さすがのマサルとトーマもぴたりと言い争いを止め、ぽかんとした表情で薩摩を見ていた。まったく、と呆れた声を出す彼は続けた。

「マサル、トーマ。お前達は今後、チームを組むように」

 はべり、と顔のドリモンをはがすと、「また厄介な」と一人ごちた。横のヨシノも頭を抱えている。

 これから一体、どうなるのか。それは誰にも見当がつかなかった。