「なんで私が……」 はぶつぶつ文句を言いながらデスクに向かい、文書――もとい始末書を書いていた。紙の横ではドリモンが丸まって、の手の動きをじっと見つめている。 「一般人が危険にさらされている状況を見過ごした。当たり前だ」 そんな彼女の独り言が聞こえたのか、隊長の薩摩はぴしゃりと言い放つ。 確かに、大門マサルは事件当時、一般人の位置にあった。だがとてわざと何もしなかったのではなく、彼とアグモンの絆を信じて、危険ではないと判断した上でのことだった。 納得いかない。はそう呟くと、忌々しそうに手元の紙を見つめた。 Hail to you! 話は少し前にさかのぼる。 コカトリモンの襲撃後に追い回された結果、再びヨシノとララモンに捕まってしまったマサルとアグモン、そしてとドリモン。 ヨシノはマサルの腕をつかむと引きずるようにDATSへと帰還した。アグモンは首輪をつけられ、リードで引っ張られている。まるで犬のようだ。は苦笑しながらドリモンを抱えて、彼らの後ろを歩く。 司令室に着くと、マサルはわずらわしそうに彼女の手を振り払った。 「ラプターワン捕獲。そして、重要参考人として大門マサルを連れてきました」 淡々と告げるヨシノの横をすり抜け、マサルはつかつかと薩摩に食って掛かった。 「アグモンの疑いは晴れたんだろ! なんでいつまでも犯人扱いするんだよ!」 そんな彼を薩摩から「そうじゃないの!」と引き離すと、ヨシノはいらいらしたように説明を始める。 「デジモンは本来この世界にいちゃいけない存在だから、一緒にいるだけで犯罪になるの!」 「でも、お前らはつれてるじゃねーか!」 マサルは周りのデジモンたちを指差す。これはどう言うべきかとが迷っていると、ララモンが彼をなだめるように「警察とおんなじよ」と口を開いた。 「スピード違反の車を捕まえるのに、パトカーがスピードを出しても違反にはならないでしょ」 分かりやすいし、正論だ。周りがうんうんと頷いている中、マサルは言葉に詰まる。途端に勢いをなくした彼を、アグモンが不安そうにその顔を覗き込む。 やれやれ、と一息ついたクダモンはラプターワンの処分について薩摩に問うた。 「しょ、処分?」 「人間界で問題を起こしたデジモンはデジタマに還元し、デジタルワールドへ強制送還させなければならない」 「でっ、でも隊長、彼はデジヴァイスを受け取った『選ばれし』人間です」 処分、と言う単語に見る見るうちに青ざめていくアグモン。は慌ててマサルが湯島にデジヴァイスを託されたことを話すが、薩摩は全く聞いていないようだ。聞いてよ! と事がうまく行かないことに彼女が苛立つ一方、マサルは「デジタマ」という聞きなれない単語に首をかしげていた。 すると扉が開いて、白い小さな甲冑型のデジモン、ポーンチェスモンが彼らの後ろを通り過ぎていった。その腕の中を見ると、白に紫の縞模様のついた大きな卵――コカトリモンのデジタマがすっぽり納まっていた。 マサル達の視線を気にするでもなく、ポーンチェスモンはまっすぐ奥の装置に向かうと、台の中心にデジタマをセットした。それを確認すると、オペレーターの白川と黒崎が素早くキーを打ち込む。 「デジタルゲート、オープン。転送まであと五秒。……三、二、一――」 カウントダウンにあわせ、薩摩が「転送開始!」と声を上げる。すると、装置はまばゆい光を放ち出した。慣れない強い明るさに思わず目を腕で覆うマサルだったが、光がおさまり彼が恐る恐る装置に目をやると、そこにデジタマはなかった。 「転送、無事完了しました」 初めて見る転送作業にマサルが呆然としていると、ポーンチェスモンの二人組がアグモンを両側から拘束して転送装置に連れて行こうとした。 「アグモンっ!」 「アニキぃ〜」 何とかしてアグモンを助けねば、とあせるマサルだったが、どうすればいいのか。何か使えるものを探し、ふと彼は横を通り過ぎていったカメモンに目を留めた。 (これだっ) カメモンはお茶を入れるために、お湯を入れたやかんを手にしていた。マサルはそれを蹴り上げたのだ。やかんの中のお湯はこぼれ、あたりに水蒸気が充満して真っ白になる。 「アグモン、今の内だ!!」 「おう!」 視界がはっきりしてきたころ、時はすでに遅し。重要参考人とラプターワンは、逃走していた。慌てて彼らを追おうと走り出すヨシノとララモン。私も、とそれに続こうとしたを薩摩が止めた。 「はここに残れ」 「えーっ、なんでですか?!」 不満たっぷりに文句を言う彼女に薩摩は「昨晩何をしたのか、自分の胸に聞いてみろ」とため息をつく。 昨晩、と言えばアグモンとコカトリモンの一件。まだ報告はしていないのになんでだ、と思い返していると、はふと一つの考えに行き着いた。 (ヨシノめ、ちくったな!) そして冒頭に戻る。 「やあっと終わったー……」 かちりとペンをノックして芯をしまうと、はぐうっと伸びをした。いすのきしむ音が室内に響く。 彼女の声に反応したのか、丸まって寝ていたドリモンがもぞもぞと動き、寝ぼけ眼で「おわったの?」と聞いてきた。 「待たせてごめんねぇ、ドリモン」 「ううん、寝てたから平気だよ」 かえろっか、とゆるゆる言って、は立ち上がりドリモンをデジヴァイスに入れる。ドリモンは中から不安そうな表情で彼女の顔を覗き込むと、『ー』と小さな声を出した。 『アグモン、大丈夫かな』 「大丈夫。マサルがデジヴァイスを落としていってくれたおかげでどうにかなりそうだしさ」 とは言え、確かに気になる。とドリモンはしばし顔を見合わせた後、DATSを飛び出していった。 * 必死にアグモンをかくまっていたマサルだったが、彼の存在はあっさり大門家に受け入れられた。それに加えて、いつの間に来たのか、ちゃっかり朝食の席に混じる藤枝ヨシノ。マサルは色々と叫びたい気持ちでいっぱいだった。 「お前らはもう少し遠慮ってもん知らねえのかよ!」 「なんかあんたに言われるとむかつくんですけど」 一触即発の空気の中、来訪者を告げるチャイムがなった。のんびりと出ようとする母、小百合を押しのけマサルががちゃりとドアを開ける。 「ど、どうも」 そこに立っていたのは、マサルの勢いに押されつつ、相変わらず手袋をはめた片手をちょいと上げただった。 小百合から出されたお茶に「わざわざすいません」と丁寧に頭を下げ、は傍らから白い箱を取り出す。 「これ、お口に合えばいいんですが」 よろしければどうぞ、と差し出されたその箱を開けると、六個のケーキがきれいに納まっていた。中をのぞいていたマサルにアグモン、知香、ヨシノが歓声を上げる。そして、「誰がどのケーキを食べるか」をかけたじゃんけんが始まった。 「私達DATSの者がご迷惑おかけしてすいません……」 「あらあら、気にしなくていいのに」 じゃんけんで騒ぐ四人の声をバックに、おかげでにぎやかで楽しいのよ、とふわり笑う小百合。いや、にぎやかすぎるだろう。は彼女の寛容な心に感謝しつつ、そこではたと自分が名乗っていないことに気づいて慌てた。 「申し遅れましたっ! 私、薩摩です!」 あたふたと自己紹介するを見て、小百合は「まあ」と感嘆の声を上げる。 「大きくなったのね」 にこにこと、嬉しそうに微笑む小百合に、は「へ?」と間抜けな声を出す。その時丁度、時計が鳴った。ははっと我に返ると自分の腕時計を見て、慌てて立ち上がった。 「すいません、今日はこれでお暇させていただきます」 「あら、もっとゆっくりしていけばいいのに」 「ちょっと仕事がありまして……」 申し訳なさそうに苦笑を浮かべ、頭をかく。「突然お邪魔して申し訳ありません」と小百合に頭を下げ、次にアグモンと目線を合わせるようしゃがむ。 「アグモン、ケーキは一人一個だからね。二個食べちゃ駄目だよ」 「うん、分かったよ」 よろしい、と笑ってアグモンの頭をなでる。アグモンは嬉しそうに目を細める。 「あ、忘れる所だった」 はぽんと手を叩くとポケットから何かを取り出しヨシノに手渡す。そして何かをごにょごにょと耳打ちすると、「ヨシノは? 夜はいったん帰ってくるの?」と普通の会話に戻った。 「ううん、夜に抜け出されたらたまったもんじゃないし、ここで見張りよ」 「げ、マジかよ……」 マサルの顔が引きつる。ヨシノはどこで寝るつもりだと言うのだ。嫌な予想が脳裏を掠める。まさかと思ったが、その予想は的中してしまうのだった。 そして迎えた朝。結局ヨシノはマサルのベッドを使い、彼は床で、しかもアグモンの寝相の悪さに苦しみながら寝ることになった。おかげでろくに眠ることができず、マサルは眠い目をこすりながら靴を履いていた。 「アニキ、どこ行くんだ?」 「どこって、学校だよ、学校」 強ぇ奴らがいっぱいいるんだ、と付け加えると、アグモンは目を輝かせて一緒に行きたいとねだった。つれていきたいのは山々だが、デジモンが外にいては目立つ。「でもなあ……」と言葉を濁したマサルに、ヨシノは昨日から渡されたオレンジ色のデジヴァイスを返した。 「これ、なくしたと思ってたんだよ!」 「DATSに忘れてってたみたいよ。それ、大事なものなんだから気をつけなさいよ」 「で、これがどう関係してるんだ?」 「それをアグモンに向けて、横のボタンを押してみて」 マサルは「こうか?」と裏面をアグモンに向け、ぽちりとボタンを押す。すると、アグモンは一瞬にして消えてしまった。 「あっ、アグモン!」 『アニキ〜!』 アグモンの声が聞こえてくるのは自分の手元。もしや、とマサルはデジヴァイスを覗いた。すると、いた。 「どうなってんだ?!」 「デジモンはデジヴァイスに収納できるの。これなら一緒に学校に行けるでしょ」 ほら遅刻遅刻、とマサルを急かし、ヨシノは自分の車に向かった。学校と言えど、マサルとアグモンの監視は怠ってはいけない。四六時中見張られるのは当然居心地のいいものではなく、マサルはいらいらとしていた。 「いつになったら監視終わるんだよ」 「知らない」 「アグモンの疑いは晴れてんだしさ、大丈夫だって!」 「そう言われてもねー」 じゃあどうしろってんだよ、とごちるマサル。確かに自分もずっと監視しているのはつらい。ヨシノは赤信号にブレーキを踏みつつ、「そうねえ……」と考え込む。 「君たちがDATSに入隊するのが手っ取り早い方法ね」 「なっ」 「ま、ありえないだろうけど」 「当たり前だろ!誰がDATSなんか……」 「おはよう、マサル、ヨシノ」 そこに、がひょこりと顔を出した。 「おう、おはよう。って?!」 「どうしてここに……ってまさか」 「そう。デジモン反応があったので」 あそこ、と彼女が指差す先は小学校。パトカーがきているのでわかりやすい。するとマサルは「知香の学校だ!」と、ヨシノの制止もむなしく走り出した。 「知香!」 人だかりの中に妹を見つけたマサルは彼女の元に走りよった。 「マサル兄ちゃん、これ……」 知香の視線の先には、無残に荒らされた飼育小屋があった。マサルの口から思わず「ひどいな……」と声がもれる。 「飼育係の子……タカシ君って言うんだけど、餌をあげにきたらニワトリもウサギも、皆いなくなっちゃってたんだって」 そう言って彼女が示したのは、教師に付き添われ警察に話を聞かれる少年。よほどつらかったのか、泣きじゃくっている。そこへ、ヨシノが「ちょっと」とマサルの手を引き倉庫の裏に引っ張り込む。 「なんだよ」 「も言ってたけど、あれはデジモンの仕業よ」 ヨシノの横で腕を組み頷くは自分のデジヴァイスを取り出した。 「デジヴァイスはデジモンがいる、もしくはいたことが分かる機能がついてるの」 のデジヴァイスを指差しながらヨシノが説明すると、そんな機能もあるのかとマサルは驚いた。そんな彼の後ろから「面白くなってきたな、アニキ!」と声が飛んできて、マサルは思わずああ、と返して一度思考が停止した。なぜ、アグモンの声が後ろから? マサルは勢いよく後ろを振り向いた。 「なっ、何で出てきてんだよー?!」 「何か狭いし、慣れないし、落ち着かなかったんだよ〜」 「だからって自力で出るデジモンがいるぅ?!」 アグモンは勝手にデジヴァイスを飛び出したようだ。テイマーの命令なしにリアライズ。初めて聞いたわ、と頭を抱えるヨシノ。一方は横で「自力で入れる子もいるし、できるんじゃない」とのんびり笑う。 「とにかくよ、また思いっきり暴れられるんだろ!」 「はあ?」 「そっか! やったなアニキー!」 そこは喜ぶ所じゃないだろう! ヨシノはそう言いたかったが、突拍子もない二人の考えに頭がついていかず、言葉を失った。 現れるなら夜だろうと踏んだ三人は、再び合流することを約束してそれぞれ分かれた。とりあえずは学校だ。 辺りはあっという間に暗くなった。決めてあった時間も迫り、は走っていた。 (あーもう、雑魚用のせいでっ!) 彼女は反省文で駄目出しをされたのだ。こんな時に限って、と薩摩を恨みつつ、足を速める。 その時、の元に通信が入った。 『、聞こえるか。デジモン反応が出た。現場に向かえ』 「朝の所ですよね」 丁度今向かってます、と言おうとしたの声を『違う』と薩摩が遮った。 『上空だ』 「へ?」 『このままだと旅客機と接触する。急げ』 切羽詰まった声。黒崎から詳しい座標が告げられると、はデジヴァイスの中のドルモンと顔を見合わせる。彼は『、』と強い瞳で頷いた。それに頷き返し、はデジヴァイスを掲げた。 「ドルモン、リアライズ!」 デジヴァイスから飛び出してきたドルモンは背をぐっと反らし、大きく伸びをする。 「ドルモン、進化!」 はこの世界のデジヴァイスと言うものには感心していた。「思い」を「デジソウル」という形で具現化し、デジモンに送り込む。すごいものだ。残念なことに、ドルモンの進化においてはデジソウルは使えないのだが。 の「思い」で、ドルモンはドルガモンへ進化を遂げる。背にあった羽根は体とともに大きくなり、飛ぶことを覚える。その姿に満足げに頷くと、はどこから取り出したのか、ゴーグルを頭につける。 「お願いね、ドルガモン」 「オッケー!」 はきはきとした頼もしい返事。が自分の背に飛び乗ったのを確認すると、ドルガモンは地面を蹴り、羽ばたいた。 「ヨシノ、聞こえる?」 ドルガモンの背でヨシノに通信を入れる。インカムから『! 今どこ?!』とややあせったような声が聞こえてくる。 「ごめん、違う所でデジモン反応があって、今そっちに向かってるんだけど……」 そこまで言って、地上に目をやる。わずかにだが、相手のデジモンの姿が見える。心を落ち着けて、デジモンの波長を感じ取り、それがクネモンだと分かった。 「今ヨシノの上空に居るから、デジモンの情報だけ伝えておく。クネモンは幼虫型デジモンで成長期。たいていは昆虫型のフライモンに進化するんだけど、外殻が硬いから、クネモンのうちに手をつけるのが得策かな」 『分かったわ、も頑張って!』 そうして通信が切れる。そうだ、こちらも頑張らなくては旅客機の乗客が危ない。はぐるりと辺りを見回し、ターゲットを探す。暗くて少し分かりにくいが、ある一点に目立つ赤色を見つけた。そして、その少し先に点滅する光――飛行機だ。 「ドルガモン、間に合う?」 「任せて!」 ドルガモンはぐっと頭を下げると、その飛行スピードを上げた。振り落とされそうなその速さに目を開けていられず、は片手で頭につけていたゴーグルをつける。それによって視界がクリアになると、すぐ目の前にクワガーモンの姿を捉えた。 「、しっかりつかまっててよ!」 「りょーかいっ」 縮まっていく距離。だが、ドルガモンはそのスピードを緩めることはしなかった。そのまま突っ込むつもりなのだ。 距離、ゼロ。ドルガモンの首に捕まっていたはものすごい衝撃に大きく揺さぶられ、歯を食いしばる。ドルガモンはそのまま、クワガーモンごと元いた場所から大きく逸れていく。 「ドルガモン、今だよ! 針路から逸れた!」 が叫ぶようにそう言うと、ドルガモンはしっかりと頷き、一度クワガーモンから離れる。そして、大きく息を吸い込むようにして構えると、口から勢いよく大きな鉄球を吐き出した。パワーメタル。それがドルガモンの必殺技だった。 鉄球はクワガーモンに直撃した。うまいこと急所にぶつかったようだ。相手は少し硬直したようになったあと、光を放ち分解を始める。「完了」。が息を吐くように小さく呟くと、クワガーモンはデジタマに戻ったのだった。 デジタマをうまくキャッチして、とドルガモンはマサル達のいる場所へ着地した。すでに決着はついているらしく、校庭の真ん中にはぽつんと一つのデジタマが転がっていた。 「良かった、無事に済んだみたいだね」 彼女がほっと息をついたのも束の間、泣きそうな「〜」と言う声にふと足元を見る。 「わーっ! ヨシノどうしたの?!」 「フライモンの毒粉で、しびれて……」 は慌ててヨシノの体を起こしてやり、壁のある場所に連れて安静にさせる。彼女のデジヴァイスを借りてララモンを収納すると、はマサルのもとに駆け寄った。 「マサルがやったんだね」 「おう! 俺とアグモンに任せれば朝飯前だぜ!」 ぐっと力強く拳を握り、アグモンと笑いあうマサル。そんな二人を感心したように眺める老人が一人。はその人物の存在に気づくと、ぱっと顔を輝かせた。 「ご覧になってたんですね!」 「ああ。拳でデジヴァイスを作る……つくづく面白い奴じゃ」 マサルも老人に気づき、「デジヴァイスのおっちゃん!」と声をあげる。はそれにぎょっとして口を開きかけたが、マサルが何も知らないことと、湯島自身が何も言ってないことを考慮して慌てて口をつぐんだ。 「お前さんの熱い拳を振り回すには、この人間界は狭すぎる。どうじゃ、デジモンの世界だったらたくさんの強敵と戦えるぞ?」 湯島は、完全にマサルをDATSに引き入れるつもりだ。もそれに賛成だった。デジヴァイスを託されたということは持つにふさわしいということ。そして、経験は浅いが強く結ばれた彼らの絆。前に進む勇気。悪事を許さない心。DATSに必要な存在だと、は思っていたのだ。 たくさんの強敵。その言葉にゆれるマサル。その返答は―― DATS本部、司令室。二つのデジタマの転送は完了し、はのんびりと、ヨシノは冷や汗を流して薩摩の目の前に立っていた。 「飼育小屋、そして遊具の破壊。事件を隠蔽する我々にもなっていただきたいものだな」 薩摩の首元で呆れたこえを出すクダモン。ヨシノは「まあ、結果オーライですし……」と弁解するが、それは一蹴されてしまった。 「は少々手荒すぎだ。もう少しリスクの低い手段を選べ」 「ドルガモンは石頭ですから大丈夫ですよ」 「自分が乗っていることを考えろ、と言っているんだ」 半ば諦めているのだろう。対して声を荒らげることもなく、ため息をつく薩摩とクダモン。ふと、ヨシノに視線を戻すと「大門マサルとラプターワンの監視は?」と問うた。今ヨシノはDATSにいる。それでは一体、現在は誰が? その答えはすぐに明らかになった。 ヨシノが言葉を濁していると、司令室のドアが開く音がした。全員がそちらに目をやると、そこに立っていたのは、まさに今話していたマサルとアグモンだった。 「お前たちは……」 「頼む! 俺をDATSに入れてくれ!」 突然の、そして思いがけない申し出だった。薩摩が驚いていると、マサルは下げていた頭をばっと上げる。 「DATSに入れば、アグモンは処分されずにすむんだろ?」 だから頼む! そう言って再び頭を下げるマサルとアグモン。その横で、が小さく挙手する。 「じゃ、私も推薦させてください」 いい人材だと思いますよ、と加えて、はへらりと笑う。確かに、前回のコカトリモン、そして今回のフライモンを倒したのはマサルとアグモンだ。そして、デジヴァイスも託された……。 答えが決まったのか、薩摩は一笑すると口を開いた。 「……良かろう。君ならきっと来ると思っていた」 「隊長?!」 「大門マサル、そしてアグモン。君たちをDATSの一員として迎えよう」 薩摩のその言葉に、マサルとアグモンは顔を見合わせて、拳を握り合った。 「やったな、アニキ!」 「これで喧嘩し放題だぜ!」 そんな理由でいいのか、とヨシノが戸惑う一方、はドルモンと新たな仲間に喜んでいた。 「ようこそ、DATSへ」 「これから一緒に頑張ろうな!」 二人の歓迎の言葉に、マサルとアグモンは「おう!」と力強く答えた。 その頃、富士山上空には一機のジェット機が飛んでいた。乗っている人物は懐かしげに窓からの景色を眺めると、「久しぶりだな」と小さくもらした。 |