「マックスに飾り付けしていい?」 自分よりも小さな小さな有機生命体の突飛な発言に、マックスことフォートレスマキシマスはオプティックを瞬かせた。 「飾る?」 「そう、ここにはツリーがないから」 その人間の少女、から返ってくる言葉は彼を更に困惑させた。何が、どうして、そういう流れになったというのか。 「待ってくれ、最初から説明してくれないか」 そう言われた彼女は、はっとした顔になった。マックスはクリスマスが何たるかを知らない。そのことに気付くと、少し考え込んでからは再び口を開いた。 「クリスマスのシーズンは木とかに部屋に飾り付けをするんだよ」 「くりすます」 「なんて言えばいいのかなあ、偉い人の誕生日をお祝いするイベント?」 なんと雑な説明だろう。とは言え、身に染みついた習慣を改めて教えるというのは難しいものだった。自分で言っていて腑に落ちない彼女は首を傾げている。 「地球の時間だともう十二月になってるし、あっ、イベントのシーズンは十二月なの」 が地球から持ってきたものの中にデジタル時計がある。日付や室温も表示されるマルチなタイプで、彼女はそれを見てクリスマスの支度を始めなくてはと慌ただしく動き回っているのだった。 「こんなもんでいい? 通じた?」 「まあ、なんとなく」 「なんとなくでいいよ。それでどう? 飾り付けしていい?」 「俺でやる必要はどこにあるんだ?」 「この船の中で大きいほうでしょ」 彼女からしてみれば全員大きいのだから誰でもいいのではないかと思い問い返していてマックスはふと、自分以外にも大型のトランスフォーマーがいることに気付いた。 「マグナスは」 その手のものに対して厳格なウルトラマグナスの名前を挙げたのは半ばやけだった。すると、さすがの彼女も苦々しい表情で首を横に振った。 「ぜーったい無理! さっきみんなと壁に飾り付けしてきたのだって、見つかったらきっと怒られちゃう」 が言う「みんな」がテイルゲイトやスワーブらを指すことはマックスでも知っている。ついでに、わいわいと楽しそうにやっている姿も容易に想像できた。 「だからマックスのところに来たの」 期待に輝く眼差しを向けられ、マックスは断ろうにも断れなかった。こうして頼りにされるなら別の機会が良かったと思いつつ、降参だとばかりに大きな排気をひとつついたのち彼が「分かった」と言うと、彼女は途端に顔を綻ばせた。 「マックスならそう言ってくれると思った!」 「そもそも、飾るものはあるのか?」 「うん。先月から作っておいたのと、あとブレインストームに相談したらくれたんだよ」 彼女はブレインストームをなんでも屋だと思っている節がある。ブレインストーム本人は頼られるのが満更でもないようで、気を良くしてほいほいと色々なものをに与えてしまいがちなものだから、周囲は気が気でない場面が多々あった。 そんな彼女が肩にさげた大きなトートをがさごそあさり始めたので、何を取り出すのかとマックスは思わず身構えたが、出てきたのは吊り下げる用の紐がついた球や雪の結晶の形を模したもの。最後にずるずると引っ張り出されたのは小さな電球が均等間隔についたケーブルだった。スイッチを押すと、電球が様々な色に点滅する。どうやら普通の電飾らしい。 マックスがほっとしたのも束の間、自分にこれが飾られることを考えると先が思いやられた。しかし既に了承した手前、今更断ることはできない。 「……で、俺はどうすればいい?」 「少しの間でいいから、私を頭のところに乗せてじっとしててほしいの」 彼女がうっかり足を滑らせてしまった時のことを考えれば少しでも姿勢を低くしていた方がいいだろう。覚悟を決めたマックスは膝を抱え込む形で座ると、を自分の頭の上へ乗せた。そのうち、何かが巻かれたり引っ掛けられたりする感覚がして、作業が進められているのは分かったのだが、なにぶん頭上で行われていることで、当事者である彼からは一切見えない。とにかくが落ちないように動かないでいるべく、マックスは彼女の鼻歌を聞きながらひたすらじっとしていたのだった。 「でーきた!」 宇宙に来てまで張り切るあたりこういうことには手馴れているらしく、初めに『少しの間』と言っていた通り作業はすぐに終わった。腕をつたってが地面に降りてきたのを確認すると、マックスはゆるゆると立ち上がり、頭を左右に揺らしてみた。装飾物自体は軽くても、やはり違和感はある。さてこのまま変形できるものかとぼんやり考えている彼を、満足げな表情の彼女が見上げて口を開いた。 「マックスもこれでクリスマスマキシマスだね」 本人は上手いことを言っているつもりなのだろうが、意味が分からない。自分の頭がどうなっているのかも依然として見えない中返答に困るマックスをよそに、トートを肩にかけ直しながらは続ける。 「付き合ってくれてありがとう。マックスにプレゼント用意しておくから、当日楽しみにしてて!」 それじゃあまたね、と言い残し小走りで去っていった彼女の背があっという間に見えなくなってしまってからも、その場に取り残されたマックスはしばらく呆然と立ち尽くしていた。 「……当日?」 しんと静まり返る空間にマックスの声だけがむなしく響く。プレゼントとはどういうことか。当日とはいつなのか。問おうにもはもういない。全部説明してくれ。 その後マックスは、彼女の発言の意図について悶々と思いめぐらすあまり、自分に装飾が施されていることをすっかり忘れてそのままバーに行って周囲をざわつかせた。 Deck Fort Max with boughs of holly! 2018/12/01 |