カルチャーショックの行く先は




「なんですか、これ」

 ぽつりとそうもらすの手には、鮮やかな色の液体で満たされた小さなガラス管があった。それを天井に掲げて光に透かしてみる。ぼんやりと発光しているようにも見えるそれと似たものを、彼女は知っている。

「エネルゴン?」
「まあ、そんなところだな」

 送り主であるロディマスが曖昧に答えるものだから、はいぶかしむ他なかった。

 エネルゴンは簡単に言えばエネルギー物質だ。そんなものを持ち歩いていて何かあった際に爆発しかねない。私がもらうわけには、と彼女はガラス管を丁重に返そうとしたのだが、「いいからいいから、持っとけって」と結局押し通されてしまったのだった。

 
*


「そういうわけなんだけど、これ、何か分かる?」

 不安をぬぐいきれないが向かった先はパーセプターのラボだった。持たされたあの液体の正体がやはり気になったのだ。何かの拍子に爆発したら怖いし、と付け加えてがガラス管をパーセプターに渡そうとすると、彼はそれをじっと見つめてから呆れたように小さく排気した。

「調べるまでもないよ」
「え?」
「これはインナーモストエネルゴンだ」
「インナーもっ……、やっぱりエネルゴンなの?」

 聞きなれない単語に彼女が眉をひそめていると、パーセプターは分かりやすいようにゆっくり「インナーモスト、エネルゴン」と繰り返した。

「人間ではどう言うのか分からないが、簡単に言えば体液だね」

 体液。そう聞いた途端、ぞわっと背筋を駆け抜けた寒気には思わずガラス管を落としかけた。

「なんで、体液持たされてるの私」

 そもそも誰の体液なのか。例えるならば血液を持たされているのと同じだろうかと考えてから、は鳥肌が立っていくのを感じた。なぜわざわざ人間で置き換えてしまったのか。

「君たち人間と我々トランスフォーマーとでは文化が違うのだから、彼も配慮すべきだったな」
「もしかして皆の間では普通なの……?」
「そういうことも含めて、彼の口から説明させた方がいい。わざわざこんなサイズのガラス管を、大方ブレインストームあたりに作らせるくらいなのだから」

 確かにガラス管のサイズはトランスフォーマーからしてみればはるかに小さくて、実用的ではないから一般的にあるものではないだろう。それを作らせてまで渡したいこのインナーモストエネルゴンとは、一体何なのか。

「色々とありがとう、パーセプター」

 苦笑を浮かべるパーセプターに礼を告げると、は再びガラス管を光に透かし、ロディマスのいる司令室へと足を向けた。


2013/12/29