。彼がそう名前を呼ぼうとすると、彼女は「分かってます」と静かにそれを遮った。その声に拒絶のような鋭利さはなく、どこか諦めたような口調だった。

「……最初から、分かってました」

 背を向けたまま、はぽつりと口を開いた。

「ショックウェーブさんがディセプティコンである以上、しょうがないことだって。……分かってた、つもりでした」

 でも。実際にその事実を突きつけられたとき、彼女は戸惑い、あんな言葉を吐いた。

 ――なんで、あんなことをしたんですか
 
「正直、想像がつきません。いつも私には優しいその手で、オートボットたちの命を奪ってきたなんて」

 振り返ったがそっと触れたその指は、彼女の熱を奪っていく無機質な冷たさしかない。やはり自分たちは違う種族なのだということを思い知らされて、は目を伏せた。

(私たちは「違う」から、所詮わかりあうことはできないの? ショックウェーブさん、そばにいるのに私たちはどんどん離れていく気がするよ。つらいよ、苦しいよ)

 目頭が熱くなって、視界がぼんやりと霞んでいく。慌てて目を瞬かせてみてもそれは変わることがなく、彼女は堪えるようにぎゅっとスカートのすそを握った。

「わかってあげられなくて、ごめんなさい」

 喉の奥にじわりと熱が広がるのを感じたは、自分の声が嗚咽混じりになっていくのに気付いた。それをなんとか抑えようとして、言葉が途切れ途切れになっていく。

「わがままで、ごめん、なさ、」

 必死に言葉を紡ごうとするその姿が痛々しくて、ショックウェーブは「もういい、」と彼女を抱き寄せた。こわしてしまわないよう、それでも強く。

「理解しろなんて言わない。お前みたいな奴がディセプティコンの考えに共感できないことぐらい分かっていた」

 そして悲しむことも。そう続けるショックウェーブは、今日のような日が来るであろうことを恐れていた。がディセプティコンとしての自分を恐れ拒絶する、自分が彼女を傷つける、そんな日が。 

「……だがそれでも俺は、お前を手放すことができない。例え拒絶されてもだ」

 ショックウェーブの腕の中では違う、違うと弱弱しく首を振った。

「でも私、どうしても好きなんです、ショックウェーブさんのこと」

 好きでどうしようもなくて、だから全てを受け入れるつもりででもできなくて、けど好きで。彼女はぐちゃぐちゃとした思いの中で迷子になっていた。

 だから。次を言おうとして肺が冷えた。は言いかけたものを一度腹へと押し込むと、再び口を開いた。

「――だからいっそのこと、全てを忘れるくらいに愛してください」

 呼吸をしようとして、彼女の唇は震えた。

「めちゃくちゃに、してください」

 それならきっと苦しまずに済む。何も考えずにいれば、彼さえいればきっと。そう考えて、はすがるように言った。

 お願いです、と続けて呟かれ、ショックウェーブの赤いカメラアイは一瞬揺らいだ。

「……ああ。お前は俺のことだけを考えていろ。他の事は一切忘れてしまえ」

 彼女が半ば自棄を起こしているのは彼も気づいていた。かといって特別自分がしてやれることはないということも。だから自分も自棄になるしか、なかったのだ。

 哀れだ。それを分かっていながらも、二人はまた愛を貪る。



救いなどそこにはないのに
作成:2010/10/12
加筆・修正:2012/04/29