が郵便物を取りに外へ出てポストを覗き込んでいると、聞きなれたエンジン音が聞こえて彼女は顔を上げた。 流線型でスタイリッシュなボディの、うすいブルーのレーシングカー。やっぱりだ、とは頬を緩ませた。 「ブラー、一体どうしたの?」 そう呼びかけられると車はあっという間にロボットへと変形してみせる。そしてその顔をずいと彼女に寄せると、堰を切ったように喋りだした。 「こんばんは!は今から暇かな暇なら僕とドライブに行かないかいああでも嫌なら無理しなくていいんだ」 「ううん、行く! ……でも」 「でも?」 「身支度させてね」 お風呂から上がったばかりで、と苦笑を浮かべるに、ブラーはがあんと衝撃を受けた。 (思い立ったら待ちきれなくてすぐさまの所へ来たけれど彼女の都合を考えていなかった!) 「ごめんもっと人間の生活サイクルを考えるべきだった」 「ううん、いいよ気にしないで。それに、ドライブ誘ってくれたの嬉しいからそんなこと関係ないよ!」 すぐ準備するからちょっとだけ待ってて、と言われに案内された車庫で、ブラーは先ほど彼女に言われた言葉を再生させながら、一人せわしなくうろうろしていた。 (ああってなんて優しいんだろうそれに嬉しいだって!早く行きたいなまだかなまだかなまだかな!) 思考はもうのことばかりで、何のことを話そう、何のことを聞こう、どこへ連れて行こうとあれこれ考えながらも、その時間さえもどかしく感じて、彼はますますうろうろするのだった。 「待たせちゃってごめんね!」 慌てた様子で駆け込んできた様子のに、ブラーはぱっとアイセンサーを輝かせた。 「きみと一緒にいるためならいくらだって待てるさ!」 恥ずかしいセリフを照れることなく満面の笑みで言ってのけられるもので、面食らっては顔を赤くさせながら「とっ、とにかく行こう!」とブラーをぐいぐい押したのだった。 「はどこか行きたい所はある?それならそこへ行くんだけれど」 レーシングカーへとトランスフォームしたブラーはスピーカー越しに話しかけてくる。いつもなら特務調査員としての務めがある彼はビークルモードの時は寡黙なのだが、今は任務外だから別だ。 「ううん、大丈夫。コースはブラーにお任せするから」 「じゃあじゃあ僕が見つけた取って置きの場所に連れて行こうかちょっと遠いんだけれどね」 「でもブラーならあっという間なんでしょ」 ふふ、と小さい笑みもつけられたその言葉がなんだか自分のことをほめてくれているようで嬉しくてくすぐったくて。スパークが高鳴らせながら「勿論!」と即答して、彼はぐんと加速した。中にいる彼女へ負担がかからない程度にすることを忘れずに。 * さすがレーシングカーというべきか、目的の場所へは宣言どおりあっという間についた。シートベルトを外して「ありがとう、ブラー」と笑うに、彼は初めて彼女を自分に乗せたときのことを思い出していた。 今になってみれば慣れてくれて良かったという気持ちと、ちょっぴり残念かもという悪戯心が半々だ。 彼はそんな回想に浸っていたが、の感嘆の声ではたと我に返った。 「こんな所あったんだ……」 夜景に感動しているをひょいと持ち上げると、彼女は一瞬驚いたように目をぱちぱちさせてブラーを見た。 「こうすればもっとよく見えると思って」 「うん、よく見えるよ。ありがとう」 ゆるりと微笑んで、は「それと」と彼に向き直ると口を開く。 「つれてきてくれてありがとう、ブラー」 そしてぎゅっとブラーの首元に抱きついた。温かな体温が彼へと伝わる。 (ああ幸せだなあ本当はもっともっとこうして一緒にいたいのに話していたいのにくっついていたいのに!) でもそれを言ってしまうときっと彼女は困ってしまう。悶々としたその気持ちのやり場に困って、ブラーは考える時間すら勿体ないとさえ思えてきて、今この瞬間を逃さずメモリーに焼き付けようと、じっとを見つめた。 「ずっとこうしていられたら良いのにね」 優しい声色で小さく呟かれた言葉。ああ、彼女も思いは同じだったのだ。心が通じ合っている。そのことだけでもうブラーは幸せだった。その幸せを逃がさないよう、彼はをそっと抱きしめた。 |