「サイバトロン星でも人間の食べられるものが手に入るんですね」

 はそう言いながらケーキにフォークを差し込んだ。勿論その中にはエネルゴンなどといったものは含まれていない。それでもためらいがちに口へと運んでみれば、見かけ通りの、地球と何ら変わらない味が広がり、はおいしい、と頬を緩ませた。

 そんな彼女を見て、ロングアームは「それは良かった」と微笑んだ。

「我々も、そういったものからエネルギーを摂取することは一応可能なんだ。まあ吸収効率はオイルやエネルゴンに劣るが」
「そうなんですか!」

 人間でいう所のガムや飴だろうか、とは手元のケーキをぼんやり見つめた。

 それにしても、そのケーキは本当においしいのだ。程よい甘さにふわふわのスポンジ、なめらかな口当たりのクリーム。まさかここでこんなものが食べられると思っていなかった彼女は、その小さな幸せを再び口に運んだ。

、口にクリームがついてるぞ」

 くすくすと笑うロングアームに指摘され、ははっとして口元を隠した。これじゃまるで自分は食いしん坊みたいじゃないか、と彼女は慌てて唇をぬぐう。それから服のポケットをまさぐって、しまった、と心の中で呟いた。ハンカチもティッシュも、ない。

「すいませんロングアームさん、何か拭くものは、」

 言葉を続けようとして、それはロングアームが彼女の手を掴んだことによって遮られた。わけが分からず首をかしげていると、彼はそのまま生クリームのついたの指を自身の口元へと持っていき、舐めた。

「ろ、ロングアームさん、何を……っ」
「勿体ないだろ?」

 ならばなぜクリームのなくなった今も舐め続けているのか。しかも、どんどんエスカレートしているではないか。

 やわらかい、でも人間とは違う感触の舌が指を、指の間をねっとりと這う。時たまぞくりとしたものが指から背へと走り、はそれを堪えるのと羞恥とでぎゅっと目を瞑った。

「もっ、もう大丈夫ですからやめてください、ロングアームさん……!」

 やっとのことで抗議の声を上げれば、彼は言われたとおりにぴたりとやめた。ようやく解放される、と思い恐る恐る目を開けると、掴まれたその手はそのままに、はぐいと引き寄せられた。二人の距離はほぼなくなる。

「まだ残ってるぞ、……」

 そう言ってロングアームは顔を近づけてくるのだから、いよいよ彼女はパニックになった。今日の彼はなんだか変だ、なぜこうなったのか。ぐるぐる考える。どきどき鳴る心臓がうるさい。顔が熱い。

 その時、の背後にあったドアが開いた。

「ロングアーム長官、すぐに確認してもらいたい書類があるそう、で……す……」

 開けた本人、クリフは自らの選択したタイミングを瞬時に後悔した。できることならあの特務調査員の持つ速さで退散したい所だが、もう遅い。苛立ちのこもった排気がロングアームからもれた。

「クリフ、部屋に入るときはノックを、と言ったはずだったな?」

 いつもの穏やかな声とは違う、低い声。ひ、とクリフの口から小さく悲鳴が上がり、次いで「もっ、申し訳ありません!!」と勢いのいい謝罪。今度こそ解放されたは思わぬ救済者に心の中で感謝した。





 

I'm sweet, but I'm not dessert!
2010/11/11