「暑い……」

 さんさんと降り注ぐ太陽と、アスファルトから立ち上る熱気。夏特有のべたついた暑さに、は思わず呟いた。

「大丈夫ですか、さん」

 身をかがめ、心配そうに彼女の顔を覗き込むのはブレイブポリスのデッカード。「平気ですよ、これくらい」と苦笑いしながら、はこうなった敬意を思い出していた。

 二人は今、交通安全週間のキャンペーンで街角に立っていた。一般人とブレイブポリスの交流も兼ねているものだが、ならば自分がここに立つ必要ないのではないか――彼女は密かにそう感じていた。

 しかしそこは総監命令、いち警官が逆らえるはずがなかった。せめてもの救いは、隣に立っているのがデッカードということだろうか。これが他の、もっと癖の強い者だったなら、肉体的疲労に加えて精神的疲労も発生していたことだろう。

「ほら、小学生が手を振ってますよ」
「あ、気をつけて帰るんだぞー。……今日も猛暑日ですから、熱中症には気を付けて下さいね」

 なんなら日陰にでも、と背後にあるテントへ視線をやるデッカードに、は「気にしないで! 本当、大丈夫だから!」とあわてた。

 曲がりなりにも、自分は副ボスだ。一人涼んでるわけにはいかない。は自分に言い聞かせ、額の汗をぬぐった。

(アイス、食べたいなあ)

 終わったらコンビニへ行こうと決め、何を買おうかと思案しようとするとふと、大きな影が差したのに気付いては頭上を見上げた。

「デッカード?」

 影の正体はデッカードだった。彼は自分の手を彼女の頭上へと持っていき、影を作っていたのだ。不自然なその状態にが首をかしげていると、デッカードはあたふたしながら口を開いた。

「その、こうすれば少しはさんが楽かと思って」

 ストレス社会で生きる彼女にはそれだけで充分だった。




あ、ぐっときた

2011/09/28