「もー、コンビニ行っただけなのにびしょ濡れ」

 最近頻発しているゲリラ豪雨。軽食を買いに外へと出たは運悪く雨に降られたようだった。やだなあもう、と呟く彼女の髪からはぽたぽた雫が落ちている。

「大丈……わ、わ、さん!」
「どうしました、ボス」

 突如あわて始めた勇太にただならぬ事態を察知したはすぐ業務モードに切り替えた。風邪を引くからすぐ着替えようとしていた彼女の考えはここで完全に吹っ飛んだ。

「ちょっ、それはまずいだろ。今お前……」
「おい、パワージョー!」
「なんだよ、言わなきゃもっとまずいだろ」
「なになに、見えないよダンプソン」
「自分は何も知りません!」
「ビルドチームまでどうしたの?」

 わあわあぎゃあぎゃあと、なんだか賑やかなビルドチームを怪訝な表情でな顔で見つめ、は首を傾げた。

「……どうぞ、お嬢」
「え? ああ、ありがとう」

 シャドウ丸から渡されたタオルを素直に受け取り、頭を拭き始める。これでも気づかないのか。いい加減気づけ、とシャドウ丸は呟いた。あくまでも心の中で、だが。結局自分が罵られるのは御免なのだ。それに、悪くない光景なのではないか、という考えもよぎっていた。

 平然とした顔で「それで、どうしました?」と聞いてくるに、勇太はどうすることもできなかった。

「そのさ、えーっと、だからあ……、で、デッカードぉ!」
「えっ、私が言うのか?!」

 突然の指名に驚くデッカードだったが、ボスに、勇太に「お願い!」と必死に言われたのなら断れない。

「な、何?! 何かあったんですか!?」

 一方のはますますわけが分からない、といった様子であたふたしている。余計に言いづらい。しかしこのままでは埒が明かない、とデッカードは決心して口を開いた。

「あー、そのですね、さん。ちょっと、耳を貸してください」
「うん」

 ひそひそ、ごにょごにょ。デッカードは自身の超AIをフル稼働させて言葉を選びながら話した。話を聞く彼女の顔は見る見るうちに赤くなっていく。そしてばっとデッカードを見、確認するように他のメンバーをぐるりと見やると「うそっ、え、まさか、」とたじろいで、そして。

「早く言ってよー!!」

 は持っていたタオルをぐちゃぐちゃにして抱え込み、「皆のばかーっ」と叫びながらデッカールームを飛び出していった。

 彼女の走る足音も遠ざかり、デッカールームは安堵の空気に包まれた。が、しかし。

「……水色か」

 静寂を破ったシャドウ丸のその呟きに、全員がむせこんだことは言うまでもない。




見えた!いや見てない!



2011/09/02