学校の定期考査明けで疲労のたまっていたは睦月に勧められ、仮眠をとることにしていた。確かに作業中にうたた寝をしてミスでもしたら自身だけでなく周りも大損害。そこで彼女はお言葉に甘えて、と席を立ったのだった。 口元を手で隠しながらくあ、と大きなあくび。若干危なっかしい足取りだったがどうにか仮眠室にたどり着きはノックをした後扉を開いた。つめて座れば三人が入るかはいらないかという程度の大きさのソファを使うことになるのだが寝ることさえできればまったく問題ない。さあ寝るぞ、と意気込んでソファに体を横たえようとしたときは机の「あるもの」に気づいた。 「……セブン?」 シルバーの分厚いケータイ――セブンは彼女の声に反応して勝手に開いた。ここまで来るのにケイタに会っただろうか、と思い返しつつ「こんなところに一人でどうしたの」と彼女が聞くとセブンは不機嫌そうな表情で言った。 『……置いていかれたのだ』 銀黒はっきりつけようか 「案外トイレに行ってそのまま寝てるのかもよ」 『そこまで間抜けな人間とは思いたくないが……』 私を置いていくなどという愚かな行為をするとも……とに変形コードを押してもらいアクティブフォームになったセブンは腕を組みうなる。 「すぐ戻ってくるって」 『はたしてそうかな』 頭上から聞こえてくる声に二人は天井を見上げた。すると、エアコンの上から黒いケータイ、ゼロワンが顔を出したのだった。は「いつの間にいたのゼロワン……」とやや呆れながら下りるのに手を貸した。そして、早々と机の上でにらみ合うセブンとゼロワン。 『何が言いたい、ゼロワン』 『網島ケイタはお前を捨てたのかもしれないぞ』 『そんなはずはない!』 セブンとゼロワンの間に険悪なムードが漂う。それぞれのフォンブレイバーには異なった性格があるとは言え、この二人は何かと衝突する。何が原因なのか、はぼんやりと原因をたどりながらブラウンの携帯電話を手に取った。勿論これはフォンブレイバーではない。 「ケイタ君に一応メールしておこ」 セブンの思いを考慮して、『何か忘れ物はありませんか』と遠まわしに。はぱぱっと文面を打ち、送信を完了してから「はあ」と息をついた。すると、先ほどまで言い争っていたフォンブレイバーたちが彼女の顔を覗き込んでいた。は思わず驚いて変な声をあげる。 「な、なに? 決着ついたの?」 『! 君なら私とゼロワン、どちらを選ぶんだ?!』 「え?」 『判断を保留する、あるいは曖昧な答えを出すことなどということは許さん』 「ちょ、ちょっと!?」 何がどうなってこのような話に発展したのか、は二人の会話に追いついていなかった。 『、君と私ならきっと良いコンビになれる!』 『はずっと監視されるような息苦しい環境は嫌いだ。そんなことも知らないのか?』 『なっ、監視するなど! 私はそんなことはしない! 大体、お前の自由加減にはも頭を抱えているではないか!』 『そのような事実はない!』 『いや、私はがそうぼやいているのを確かに聞いたぞ!』 『っ、そもそもお前はについて何も知らないだろう! 俺とは長い付き合いなんでな、得意分野や細かい趣味まで知っている!』 『だがそれにはお前が家出をしていた分のブランクがあるだろう! 変化しているかもしれないではないか!』 色々とつっこむべきポイントはあるのだが、彼女はそれをする気になれなかった。目の前で繰り広げられる激しい討論をただ呆然と聞き流すだけ。 『フォンブレイバーの最新機種、私だな?!』 『黙れ青二才が! 俺だろう?!』 突如、ずいと二人に迫られては思わずのけぞる。 (犬と猫どっちが好き?よりも答えに困る質問かもしれない……!) つまりは不毛だ、と彼女は思った。これがサードとセブン、ゼロワンとサード、と言う選択肢に変わっていても同じだ。誰のバディではないにしろ、にとってどのフォンブレイバーも大切な存在なのだ。 「セブン!」 その時、ケイタが勢いよく部屋に入ってきた。その目に飛び込んできたのは自分のバディたちに追い詰められているの姿。何が起こったのか、と彼は眉をひそめた。 「……何やってんの?」 「け、ケイタくーん!」 彼の姿を見るなりはそのまま抱きつかんばかりにケイタの近くに寄ったかと思うと、「ごめん、後はよろしく」と早口で告げ、部屋を出た。いきなりのことで何がなんだかよく分からないケイタは唖然としながら走り去る彼女の後姿を目だけで追った。 『ケイタ、彼女を追うのだ!』 「え?」 『ぐずぐずするな!』 「いや、でもさ……」 セブンとゼロワンは二人して『あぁ?!』とバディであるケイタにすごんだ。彼は小さく悲鳴をあげると、ジャケットの両ポケットにケータイを入れてアンダーアンカー内を走り回ることになってしまったのだった。 「あれ、ちゃんなんだかさっきより疲れてない?」 (結局仮眠できなかった……) はぐったりとデスクに突っ伏した。 |