研修生、網島ケイタは今日もアンカーに来ていた。特に事件もなく、座って机に突っ伏し、退屈な時間を過ごしていた。横にはエージェントの桐原が仏頂面で紅茶を飲んでいる。 「ヒマだなあ……」 ケイタがぽつりとそうが呟いたとき、ひとつの声が彼の後ろから飛んできた。 「もしかして、セブンの新しいバディくん?」 アバウト××? 「えっと……どちら様、ですか」 自分と同じ高校生が他にもいたのか、と驚きながらその分厚いファイルとトレイを抱えた少女にぎこちなく名前を尋ねるケイタ。彼女は「あ」と声を漏らしたかと思うとしまったとばかりにぱっと片手で口元を覆った。 「まずは私から、だよね。高校三年。開発部に所属してます」 「高一の網島ケイタ。……まだ研修生です」 『一人前と呼ぶにはまだまだ程遠い存在だ』 横から口を挟むセブンを「余計なお世話だっ」とじとり睨んでケイタはため息をついた。 「駄目だよセブン、そこはちゃんとフォローしてあげなくっちゃ。未来のバディなんだから」 そう言うとは手に持っていたファイルをめくり、軽く目を通して「うん」と何やらうなずく。 「効率はまだ悪いけど十分だと思うなあ。ですよね、桐原さん」 話を振られるとは思っていなかったのか、桐原はぴくりと眉を顰めると答えを考えているのか黙りこくる。 「スピードは人それぞれだし大丈夫だって!」 『急いだところでしっかりとした成長はできませんからねえ』 桐原の代わりにサードがのんびりと答えるとは「そう言えば本題を忘れてた」と呟いた。 「桐原さん、サードをメンテナンスにってご隠居から連絡です」 『わざわざありがとうございますさん』 「忘れてたら意味がないだろ……」 はあ、と息をつくと桐原はサードを手に持って開発部の方へ行ってしまった。その一方でケイタが不思議そうな表情でぼんやりとを見ていた。 『どうした、研修生』 「サードって人のこと苗字で呼ぶよなあ、って思って」 『そうだな』 でもさっきは……とケイタは首をかしげると「あのー」と、机の上のカップとソーサーをトレイに乗せるに声をかけようと口を開く。 「、さんは何かサードと特別な関係でもあるんですか?」 いきなりの質問に彼女は「え?」と目をぱちぱちさせたのだった。 * 「もう、びっくりしちゃった」 『私も驚いた』 紅茶を淹れなおしたはケイタと、サードを開発部に預けて戻ってきた桐原とにカップを渡して自分もマグを持ち適当な所に座った。 『大体、特別な関係とはどんな関係だ』 「えー……恋人関係?」 横で桐原が盛大に咳き込む。 「いくら人工知能を積んでるからといってケータイと人間がどうやって恋におちるっていうんだお前は……」 桐原からしてみれば自分の大切なバディが引き合いに出ているのでたまったもんじゃない。一方「だって……」と恥ずかしそうにカップで口元を隠すケイタを彼は鼻で笑うと、眼鏡をかけた中年の男性を顎で指した。 「あいつのネームプレートをよく読んでみろ」 ケイタは目を細めてその彼の名札をゆっくり読み上げる。 「……」 そこではっとしたように目を見開くと「!」と叫ぶように繰り返してを見た。 「うん、私のお父さん」 『二人ともと呼んだら紛らわしいだろう。たいていの人間は娘の方は名前で呼んでいるのだ』 なるほど、と納得した様子でぶつぶつ言うケイタを見て笑い、はマグに入ったミルクティーを一口飲むと至極まじめな顔でゆるりと口を開いた。 「私は恋人がサードやセブンでも全然構わないけどねえ」 途端、アンカー内に沈黙が満ちた。 |