「迎えに来てくれてありがとね、ゼロワン」
『お前がいないと家に入れないからな』

 ならケイタ君の家に行けば良いのにと思いつつも、自分を選んでくれたことに小さな喜びを感じて、はひっそりと笑みをもらした。

 電信柱の明かりの下、二つの影は微妙な距離を保ちながらゆっくりと歩を進めていた。

 自身の前を歩きながら月を見上げるをカメラアイに映しこみつつ、ゼロワンは彼女と出会った時のことをぼんやりと思い出していた。

 あれから随分と時間が経った。しかし、未だにゼロワンは自分のことを彼女に打ち明けられずにいる。「言いたくなければそれでいい」と言ったのはだ。しかし、本当にそれで良いのか。ゼロワンは悩んでいた。

 この先、隠し事をしたままで過ごせるのか。とは言え、自分のことを話すとなれば、アンカー襲撃のことも話すことになるだろう。

は、どんな反応をするだろうな)

 ふ、と自嘲的な笑みがもれた。軽蔑するだろうか、恐怖するだろうか。嫌な結末しか予測できず、ゼロワンは思わず足を止めた。

「どうしたの、ゼロワン」

 心配そうな声。自分の過去を話して、この温かな声を悲痛に染めたくはない。ゼロワンは近づこうとする彼女を手で制止させると、『なんでもない、気にするな』と言って再び歩き始めた。

(それならばいっそのこと、離れてしまえばいい)

 元々会うはずがなかったのだ。そんな存在が消えたところで何もない。そんなことを考えていると、ゼロワンは自然と彼女との距離を広げていた。

(このまま遠くに行ってしまえば、楽になれるだろうか)

 気付かれないように、ひっそりと歩くのを止めてみる。近くに感じていた彼女の足音が、影が遠ざかる、遠ざかる――

「ゼロワン?」

 それでも、彼女はすぐに気付いてしまう。

「……肩、おいで」
『肩?』

 不思議そうに問い返してくるゼロワンに、はしゃがみこんで右手を差し出した。彼女の厚意を無碍にすることもできず、ゼロワンはその手に乗り、肩へと一飛びした。

「ごめんね、駅まで結構な距離でバッテリー消費しちゃった?」
『これくらい、大した距離じゃない』
「そっか、良かった」

 は安心したように笑うと、肩のゼロワンが落ちないようゆっくり歩を進めていく。

「並んでいるのもいいけれど、たまにはこうやって歩くのもいいでしょ」
『そうだな』
「これからも、こうやって二人で一緒に歩いていけたら良いね」

 ゼロワンから言葉はすぐに返ってこなかった。しかし彼女はそれを気にすることなく続ける。

「楽しい時も、悲しい時も、いつも」

 ね、と優しい声で言われてしまえば、ゼロワンは全てを吐き出しそうになってしまうのだった。
 
『……は、俺が駄目な所や嫌な所を見せても一緒にいてくれるか』

 嫌いに、ならないか。そう続けかけて、ゼロワンはやめた。そこまで聞くのは自分がひどく弱い存在なのだということを認めてしまうようで怖かったのだ。

 唐突に繰り出された質問に、はしばし目を丸くしていた。だが、すぐに穏やかな笑みを浮かべると、彼女はゆっくり口を開いた。

「当たり前だよ。私は、ありのままのゼロワンが好きだから」

 あの声でそう言われた途端、ゼロワンは処理しきれないデータの波に襲われた。

(そう言って、くれるならば)

『――、俺は』

 ゼロワンは一呼吸置くと、意を決したように静かに話し始めた。





いつわりはいらない
(いつわりたくない)
 なんか毎度ながら妙に湿っぽい感じで申し訳ないです……。ちなみに「ずっと一緒にいる」、「ありのままのきみでいい」を二大テーマにしたつもり、です。
 えーっととにかく! こんな作品ですがよろしければどうぞです。くるくるさん、六周年企画リクしていただきありがとうございました〜!


2010/08/06