世間がクリスマスムードに包まれ、いよいよクリスマスが明日と迫った日の夜、つまり、クリスマスイヴ。は明日の友達とのパーティに持っていくお菓子を焼いていた。彼女はご機嫌な様子でクリスマス・キャロルを口ずさみながらオーブンを覗き込む。そんな彼女を横目に、ゼロワンはややうんざりとした表情だった。 『理解できん。なぜクリスチャンでもないのにクリスマスを楽しみにする?』 それは独り言のつもりだったし、何よりオーブンから発せられる熱が不快でゼロワンは離れた場所にいたのだが、には聞こえていたようで。彼女はワンフレーズ歌いきらないうちに顔を上げ、「そんなに気になる?」と首をかしげた。 「日本人って大体そうだと思うけどなあ」 『結局はクリスマスを理由にしてただ騒ぎたいだけだろう』 「まあそれが一番正解なんだろうけど……」 あはは、と苦笑して、は再びオーブンを覗き込む。 『それに、クリスマスに限ったことじゃないが、何かと記念日にこだわっている』 そう言われてふと、彼女は冷蔵庫に貼られたカレンダーを見た。確かに女の子は「記念日」が好きだよなあ、と、クラスで聞こえてくる会話をぼんやりと思い出しながら、はくすりと笑った。 「ゼロワン、もしかして妬いてる?」 『べっ、別に俺は――』 ちょっとうぬぼれた質問だったかも、と思いつつ聞いただったが、どうやらそれは図星だったようで、ゼロワンはもごもごと言葉を濁した。 「ごめんね、二人だけで過ごす時間が減っちゃって」 『い、いや、気にするな。』 自分がわがままなだけだ、と言い聞かせ、ゼロワンはこっそり肩を落とした。 記念日など理解できんとぶつぶつ言っていたゼロワンだが、彼自身が一番それにこだわっていた。せっかくのクリスマスなのに、をその友人たちに取られてしまった。そのことが不満だったのだ。 ゼロワンが布巾をいじいじしていると、彼女は「言い訳じゃないんだけど、」と前置きしてから口を開いた。 「本当は特別な日なんていらないくらい、ゼロワンと一緒にいる一日一日が幸せなんだよ。毎日が記念日みたい」 はふわりとした、どこか照れくさそうな笑みを浮かべると、電子音を鳴らすオーブンへと手をかけた。 彼女が焼け具合に満足して再び歌を口ずさんでいる頃、ゼロワンは熱を放出させながら固まっていた。 |