少女、は防護ゴーグルを額までずり上げると、まくっていた袖を戻して息をついた。 『どうですか、様』 そんな彼女の表情を伺うようにサードが静かに近寄ってくる。 彼がの事を名前で呼ぶのは、それは彼女が開発部に所属する人間の娘であることが原因にある。同じ呼び方だとややこしいので父の方を苗字ので呼び、娘を名前ので呼んでいるのということだ。 ゴーグルを首にさげるように移動させるとは苦笑を浮かべつつその背中を完全に椅子へと預けた。回転式の椅子がぎしりと音をたてる。 「もう大丈夫なはずだよ。ごめんね、今私しか手が空いてなくて……」 サードが慌てて『とんでもございません!』と声を上げた。というのも、現在アンカーの開発部では新型のブーストフォンを開発中で、主だった部員はそちらに借り出されているために、今回は若輩者の彼女に修理が回ってきたのだった。 が電源を入れてやるとブーストフォンスピーカーは正常に作動し、机の上で飛び跳ねる。「おはよう、スピーカーくん」と声をかけ、安心したように微笑むを見てサードは続けた。 『様はお若いですが、その腕は確かではありませんか!』 バディも高く評価していますよ、とサードは加えたが彼女には桐原が自分のことをよく思っているなど想像できず、一瞬いぶかしげな表情を浮かべた。 そんなサードのバディは今この場にはいない。上層部に書類の提出をするとか何とか言ってたっけ、と思い起こしながらはふっと笑みを戻すと、ゆるりと口を開いた。 「サードがそう言ってくれるだけで私は嬉しいよ」 『勿体無いお言葉です、様』 サードがあわあわとうろたえるのが愛らしくて、彼女の口から小さく笑みが漏れる。 「バディと性格が全然違うんだね」 『バディですか?』 バディケータイは持つ人間の性格次第で進化していくが、その「進化」は必ずしも同じ性格になるわけではないらしい。普通なら性格がうつると考えがちであるが、性格が確立していく過程で何が起こっているのだろう。は至極まじめに考え込んだ。 「桐原さんはあんななのに……」 「俺が、何だって?」 独り言に返ってきた声には飛び上がって驚いた。彼女が突然悲鳴を上げるものだからサードとスピーカーもびくりと体を震わせる。 『お帰りなさいませ、バディ』 「は、はやかった、ですね」 いつものように深々と礼をするサードの一方、は頬を引きつらせてぎこちない笑みを返した。桐原は顔をしかめたまま彼女を睨む。 「俺のフォンブレイバーをたぶらかすやつがいるんでな」 きょとんとしてスピーカーと顔を見合わせるに桐原は一言「お前のことだ」と告げて、サードをつれ去っていった。 |