「でも、りっしょん?」 は机の上でのそりと動くさそりのような形の機械を見つめながら首をかしげた。 『本来災害時の瓦礫除去や簡単な電子機器の解体に使用する』 本来、という言葉に引っかかるのかは一瞬眉をひそめたが、それは口にせずデモリッションに左手を差し出した。 するとデモリッションはしばらく警戒していたのだが、じりじり近づいてきたかと思うとその手に飛び乗った。「おおー」と彼女の口から感嘆の声がもれる。 「デモリッションにも人工知能が入ってるの?」 『俺に比べれば軽いものだが』 興味深そうに「そうなんだ」と呟いて彼女はデモリッションの背の部分をなでる。視覚部がゆらゆらとゆれていて心なしか嬉しそうだ。 途端、ゼロワンの表情はわずかにゆがめられたのだが、彼女はそれに気づいていない。 「それで、デモリッションとゼロワンにはどういう関係があるの?」 が気に入ったらしくその手の上から動こうとしないデモリッションを、横目で睨みつけながら『俺がデモリッションを着身することでその機能をより引き出す』とそっけなく言うゼロワン。 「着身? 初めて聞くけどそれってどんなの?」 直接言わないが、彼女の目は「実際に見せてほしい」と物語っていた。ゼロワンは彼女のまっすぐな目から視線をそらすと、言葉で説明するのも難しいしな、と理由をつけて『分かった、実践してやろう』と言った。 『デモリッション、着身だ』 ゼロワンの声に反応し、の手の上に乗っていたデモリッションは大きく飛び上がると、アクティブフォームからモバイルフォームへ移行した。携帯型になると、空中で瞬時に各パーツに分解される。それをゼロワンが素早く、華麗に着信していく。背、腕、足のパーツ。そしてバイザー。 『着身、完了だ』 鈍い音とともにバイザーに赤い光が灯る。ゼロワンはふうと息をつくとちらりとを見た。 彼女はあまりの早業に初め唖然としていたが、徐々に感動が湧き上がってきたのか、目を輝かせた。 「か、かっこいい……!」 ストレートな褒め言葉。心の底からそう思っているのだろうと分かる、力のこもった言い方だった。ありふれた表現だが、彼女正直な気持ちがダイレクトに伝わってきて、ゼロワンは少し照れくさい気分になった。 それをごまかすように咳払いをすると、ゼロワンは『こんな感じだ』と言って着身を解いていった。 「わざわざありがとう、ゼロワン」 『これくらい、大したことはない』 そこでふと彼は、「デモリッション」という付加価値がどれほどのものなのか気になった。 『、お前はいつもの俺とデモリッションを着信した俺ならば、どちらを選ぶ?』 「え、どっち、って……」 突然の質問に、は考え込んだ。しばし黙り込んだ後、「無理!」と声を上げた。 無理。何がだ。俺がか。もう潮時か。彼女の一言によって、ゼロワンの思考は一瞬にして色々なマイナスイメージに満たされる。 その原因、は続ける。 「ゼロワンはゼロワンだし、どっちもかっこいいから選べない!」 だから無理。真剣に悩んだ末に彼女が出した答えはそれだった。 「どうしても選ばなきゃ駄目?」 そう問うてくるに、ゼロワンは満足そうに笑って『いや、もういい』と答えた。 |