只今、私のバディである桐原様はとある菓子店の中で迷っております。いつもに増して眉間にしわが寄っておりますゆえ、周りの方々が居づらそうにしています。

 ……あ、ようやく決まったようです。

*

 呼び止められたかと思えば突然突き出された紙袋。がそれにきょとんとしていると、桐原は「バレンタインの礼だ」とぶっきらぼうに言った。彼女はああそういえば、と日付の表示された時計を見やってぽんと手を叩く。

「えっ、でも良いんですか?」

 紙袋は有名菓子店のもので、見るからに高そうだ。受け取るのに戸惑うに余裕の笑みを見せる桐原。

「借りは必ず返す主義だからな」
「(借りって……)」

 苦笑するに無理やり紙袋を持たせた桐原は、「そういうことだ」と言うとすたすた去っていってしまった。

 その背に頭を下げつつ、は紙袋の中をちらりと一度のぞいたかと思うと、もう一度、今度はいぶかしげに凝視した。そして顔を上げると、困ったように「あのー……」と桐原を呼び止めた。

「本当に良いんですか?」
「しつこい!」
「いや、あの、これ……」

 苛立つ桐原にびくつきながら、はおずおずと小さい紙袋の口を開く。その中身は彼自身が選んだ菓子のはずだったが、桐原は中を見て目を見開いた。

「サード!? どうして中にいるんだ!」

 予想外の事態に声を上げる桐原の一方、サードは『これはこれは桐原様』と、まるで自分の状況が当然だとでも言うかのように、ごくのんびりと返した。
 桐原は思わずいつもサードをしまっている腰のホルダーを見た。だが当たり前ながらそれは空。彼は次にを見た。

「お前、いつの間にサードを……!」
「ちっ、違いますっ! 最初から入ってました!」

 鬼の形相で詰め寄られ、は千切れんばかりに首を横に振り、慌てて弁解する。その顔はもう泣く寸前だ。

様のおっしゃるとおり、私自ら入ったのですよ、バディ』
「またどうして……」
『バディが気づいてくれればよかったのですが……』

 袋からひょっこり顔を出しながら『気づいてくれませんでしたね』と恨みがましく言うサードに、桐原は気まずそうに視線をそらす。確かに、普通なら重みで気づくところだ。

『というわけで、私は本日から様のもとにお邪魔させていただきます』
「へ?」
「なにっ?!」
『だって、私は様にプレゼントされたわけですから』

 至極にこにことし、『ですよね、様』と同意を求めるサード。は頷きかけて、ちらりと桐原を見て「ひっ」と息を呑んだ。蛇ににらまれた蛙の気分を味わった瞬間だった。

「気持ちは嬉しいんだけどね、」
もそう言ってることだ。帰って来い、サード」

 ほら、と桐原は手を出すが、サードはぷいと顔を背け、『嫌です』と即答した。

「なっ……!」

 きっぱりあっさり拒否され、ショックを受ける桐原。そしてそのまま地にうなだれた。その後も、たまに扱いが乱暴ですしー、ケータイ使いが荒いですしー、といつものサードからは想像できない言いっぷりだったのだが、桐原の耳にはもはや届いていなかった。

 このサードの返答にはも驚きのあまり目をぱちぱちさせて、腕の中のサードをつい見つめてしまった。彼は真面目に言っているのだろうか。そう思ったが、サードの様子はいつもどおりだ。

「あの、サード?」
『……様は私のこと、嫌いですか?』

 彼女が説得する前に先手を取るサード。見上げるようにそう問われ、は言葉につまった。少し視線を泳がせると「それは、」とそろりと口を開く。

「好きだけど……」
『私は様のことが大好きですよ』

 にこりと更に先制。は面食らって真っ赤になった。 


プラン・ブルー決行
ケ「え、ちょ、何が起こってるんですかこれ?! 桐原さーん!!」


2009/03/14