私はちゃんの携帯電話。勿論、「フォンブレイバー」でもなんでもない、普通の携帯電話。ちゃんと出会ってどのくらいだったっけ。一年だったかな。意外と短い。でも、彼女が何事も全力で取り組む頑張りやさんで、うっかりやなのは知ってる。 アンカーに関わることを話すちゃんの顔は、学校のことを話してるときと同じくらい楽しそう。特に、さっき言った「フォンブレイバー」の事となると……なんて表現すればいいのか分からないけど、とにかくきらきらしてる。 フォンブレイバーというものはすごい。私は喋ることも笑いかけることも、ましてや歩くこともできないけど、彼らにはそれができる。人工知能があるから自分で考えて、その状況から最適な、そして相手が求める行動をとる。非常に羨ましい存在なのだ。 そんなフォンブレイバーの一体、サード。桐原さんという、ちゃんの恐れてる人の「バディ」だそうで。私も、何度も見たことがある。誰にでも丁寧な、青いケータイ。 ちゃんは彼のことを「理想」だと、目を輝かせて言う。彼女は「一緒にいられるだけでも幸せ」と話すのを良く聞く。勿論、相手の詳細は伏せて、だけど。私はその度に、あれ、と思う。 この前ちゃんの友達が、「佐々木君と一緒にいるだけでどきどきする」と言ってたのに対して彼女は「それは恋だね」と返していた。 じゃあ、ちゃんのは「恋」なんじゃないの? 私はそう思うのだけど、聞くことはできないし、彼女が話してる相手もそのことは指摘してこない。……いや、でも私にはそれが恋だという確信がある。じゃなきゃ、彼がバディの仲介なしで送ってきたメールが来るたびに、あそこまで嬉しそうにしないと思うのだ。 そして彼、サードは分かりやすい人……じゃなかった、ケータイだと思う。ちゃんにメールを送る、と言ったけど、その内容は、ごく他愛のないもの。いつも『今夜は満月がきれいですよ』と言った感じ。向こうのバディにばれたら大変なことになると思うんだけど、何も言われない所を見ると、どうやら巧みに隠しているらしい。 けど、そもそもフォンブレイバーは個人的なメールを送ってくることがほとんどない。例えばシルバーのケータイ、セブン。彼が送ってきたメールと言えば、『すまないがケイタに勉強を教えてやってくれないか』くらい。黒いケータイ、ゼロワンは『充電が切れそうだ ピックアップしに来い』。サードとは何かが違う。いや、サードが彼らとは違うと言った方がしっくり来る。 この前ちゃんが席をたった時に、サードと一緒になった。彼女が私を机の上に置いていったのだ。彼はため息をつくと『貴方様に話しても仕方がないのですが』と私に話しかけてきた。 『様は、私の話ごときで喜んでいらっしゃるのでしょうか』 喜んでるよ。だって、あんなに嬉しそうな顔をしてるんだもん。 『私は、様に笑っていただければ……いえ、少しの時間でも一緒にすごせるだけで幸せなのでございます』 あれ。私はその言葉に引っかかった。それって恋じゃないの? それに、ちゃんも同じことを言ってるよ。これってお互い好きってことだよね。なんで二人は気づかないんだろう。一緒にいられるだけでいいの? 何も言わないで終わるの? 何で気づかないの? 私はもやもやして仕方ない。 私はちゃんの携帯電話。ちゃん、サード、頑張れ。 |