すん、と鼻をすする音が屋上に響いた。は座り込んで日の出を待っているのだった。 (一昨年、去年は寝ちゃって見れなかったから、今年こそ……!) そう意気込み、アラームをかけて仮眠をとる、などといったことまでしていた。どうしても初日の出が見たいらしい。外にいればいくら着込んでいてもさすがに寝ることはない、と先ほどから屋上に出て初日の出を待っているのだが、まだ日が差し込む気配はない。 (どうしよう、暇だ……) 時間をつぶしにテレビなどを見ていて日の出を見逃したんじゃ意味がない。本は暗いから外では読めない。携帯はこんな時間にメールする相手もいない。ネットもあまり使わない。 (ちゃんと考えるべきだったなあ……) 自分が情けなくてため息をつく。こうなれば意地だ、と垂れ下がったマフラーを巻きなおした。 『こんな時間に何をしている?』 辺りの闇に溶け込む黒。ぼんやりと浮かぶ液晶画面。ゼロワンだ。は驚いて目を見開く。 「ゼロワンこそどうしたの?」 『ちょっと、な』 言葉を濁すとゼロワンは『それよりお前だ』との横に座り込んだ。 『今日は流星群の日じゃないが……』 「うん、次の流星群は来週。今日は初日の出を待ってるの」 『そうか、成る程な』 彼女の言うことに納得しかけたが、ゼロワンは思いとどまった。『いや、待て……』と呟くと、彼は即座にデータベースにアクセスした。その様子には首をかしげる。解析が終わったのか、画面が通常のフェイスパターンへと戻った。 『……、初日の出の予想時刻は今から約一時間後だぞ』 「え」 この反応だと、どうやら下調べは不完全だったらしい。いや、手をつけてもいなかったのだろう。 『一時間、何もせず一人で待つつもりだったというのか?』 「う、うん……そういうことに……」 視線を泳がせる彼女の返答に呆れ、ゼロワンはため息をついた。 『仕方ない、俺が一緒に待ってやろう』 「えっ、本当?! ありがとうゼロワン!」 『丁度暇をもてあましていた所だ』 だからと言って、屋上に来るなどという電気消費量の多いことをわざわざしているあたり、素直ではない。そのことに気づいているのかいないのか、は嬉しそうに笑みを浮かべている。 は座りなおすと、はたと一つのことを思いついた。 「ゼロワン、ここおいでよ」 彼女が示すのは、自身が膝を抱えて座ったときにできる隙間。ゼロワンは少しためらったが、の腕の中にすっぽりとおさまった。 二人がいつものように取り留めのない会話を交わしている内に、気づけば空は白み始めていた。日の出までもうそろそろだ。ようやく見られる、と期待で胸が騒ぐ。 「もう少し、だね」 『良かったな、』 「うん」 そこでは「あ、」と声をもらし、おもむろに立ち上がった。そのまっすぐな目線の先には地平線から差し出す光。神々しささえ感じるその光景に、は目を輝かせる。 「きれい……」 感動からか頬は赤みを帯び、日に照らされている彼女は、どこかいつもとは違う表情だった。 『(こんな顔も、するのか)』 不意に彼女が見せた、自分の知らないその顔にどきりとして、ゼロワンは視線を日の出の方にそらした。 ひとしきり日の出を見つめた後、はふっと肩の力を抜いて息をついた。 「今年もよろしくね、ゼロワン」 『……当たり前だ』 はゼロワンを抱きかかえたまま、彼にキスを落とした。 あの陽にかけて誓わなくとも、 |