「中、入らないのか」
「うん」

は西の方向を見据えている。日はもうほとんど沈んでいた。

「…ねえ、地球が終わるよ、修正」

そうぽつりと言った彼女は、ぼろぼろと涙を流していた。
(その彼女を美しいと思った自分はのんきと言うか、何と言うか)

「怖い、よ。一瞬かなあ」

彼女の声は震えていた。俺は「どうだろう、一瞬だと良いけど」としか言えない。
正直な話、自分は宇宙へ逃げられる。けれど、彼女はどうする?

「ねえ修正、死んだ後の意識はどこへいってしまうの?」

はこちらを向いた。でも直視できなくて顔を伏せた。
問いかけには、黙って首を横に振ることしかできなかった。
はそっか、そうだよね、と言って再び夕日を見ていた。

「怖い、よ、修正
だって、あの夕日も、草のにおいも、するすると流れる水も、
この冬の冷たい空気も、あの星も、空の色も何もかも、感じられなくなるんだよ」

彼女はやはり美しかった。きれいだった。
彼女に死んで欲しくなかった。でも彼女は地球の人だから連れ出すことはできない。

「だからせめて、最期まで外にいたい」

なら俺にできることは何か。そこで頭にあの時の映像が流れた。
映像の中、シーズンの終わったあの海の波打ち際で、彼女が口を開いた。

『私と一緒に死んでくれますか』

今なら、あの時訊かれたことに返事ができる。けれど体が震えた。

「修正も一緒にいて」

その言葉を聴いて、決意は固まった。
俺は、星の見え始めた空を仰ぎ見ながら冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
そして吐き出し、の方へ向き直った。










深呼吸の必要
残り時間はあと少し。どうか言い切れることができますように。