修正、と言う声ではっとしたのだが、今俺はとふたりっきりだったのだ。どうして彼女が唐突に海へ行こうなどと言い出したのか、理由は分からなかったのだが、まあ良いか、と一緒に来た。

 シーズンも終わって随分経っていたからか、人は誰もいなかった。天気は悪くない。ややぬるい潮風が脇をすり抜けていく。

 名前を呼ばれて彼女の方を見ると、彼女は先程まではだしになって波で遊んでいたのだがそれを止めて俺に向かって手招きをしている。

 俺は砂に足を捕らわれつつも、波のぎりぎり来ない所まで行くと、なに、とだけ尋ねた。すると彼女は俺をまっすぐ見て言った。

「修正、私と一緒に死んでくれますか」

 え? と思った瞬間、彼女は俺の腕をつかみ、自身の方に引っ張った。「あ」という一言さえあげる暇は無く、俺とは海に倒れこんだ。

 その途中の景色が変にスローモーションで俺の目に飛び込んでくる。灰色がかったその光景の中、鮮やかなのは楽しそうに笑うだけ。のどがひゅうと鳴った。

 打ち付けられたのは、頭の沈まない限界の位置。体を起こし、二人で顔を見合わせると、嘘だよ、という彼女の声。それを聞いた俺の腕は、自然とをだきしめた。

 は「ごめん、だきしめてもらう理由が思いつかなかったの」と静かに語る。どんな顔をしているのか分からない。見る勇気がなかった。俺はただ、彼女をだきしめることしかできなかったのだ。

 は「冷たいよ、修正」と、確かにそう言った。





冷たい

いったい、どれのことだろう。こころあたりは多すぎるんだ。