「……」 「……」 「……」 流れる沈黙はみっつ。私はその少年を前に、阿呆みたいに口を開けていた。何しろ、唐突過ぎるのだ。私だって「名無し」とはいえ一応忙しい。寝るとか寝るとか寝るとか。 「え、いや、いきなり言われても困るんですけど会長」 「それは充分承知の上で言ってるんじゃよ〜」 やっとのことで私はその返答をしたのだが、どうやら拒否権は無いと見える。改めて少年に目をやるが、彼は目をあわそうとしない。 「もう他の奴らもお手上げなんじゃよ〜くんだけなんじゃよ〜」 だいたい見当はつく。まあ見かけで判断できないとはいえ生意気そうな目をしている。他の奴に反抗したんだろう。私も昔はよく反抗した。 『嫌と言ったら嫌なのです、師匠』 『俺はその目に負けんぞ! 負けないからな!』 「私だと余計反抗するんじゃないですか?」 「いや、君なら出来る! 多分」 若かりしあの日がなつかしい。自分の性格はようく分かっているので相手が反抗することくらい予想がつくが、それでも会長は引かない。ため息をつきつつも、まあ良いかちょっと位は手伝ってあげよう。そう思い始めていたときだ。 「こんな奴と一緒にやれるかよ」 彼は無愛想に言葉を吐いた私と会長はその場で固まった。会長はその上面白いくらいに青ざめていった。その瞬間に、私は決意したのだ 「良いでしょう、私が引き受けましょう」 この少年を跪かせて差し上げましょう、と。 * 「さて、これから君が使う部屋を確保しなくてはいけません」 「……」 「私の部屋でも良いですが嫌でしょうのでね」 「……」 どこまで、黙っているつもりなのか。はこの先大丈夫か、と修正の事が心配になった。 (別に私が世話をする分には良いけど……。一度ヒーローになったら、その先は長いのに) 彼女がふう、と息を吐いて修正を見ると、来た時から彼のその無愛想な表情は変わらなかった。彼女は再び息を吐き、彼の向かいに座った。 「まあ、いいや、先自己紹介でもしとくよ。私は名前が無いです、親が面倒でつけませんでした。親が地球マニアなので地球人の名前をつけられました。とつけられました。ヒーロー暦はそんなんでもないです。以上。ナナシか、って呼んでくれればいいや」 彼女はそう言い終えると右手で修正を促した。 「……修正マン」 長い沈黙の後ポツリと名乗る彼。その後には他に何か言葉が続けられるかと思われた。が、その後何秒待っても彼の口から言葉は出てこない。 (そ、それだけ……!) 彼女はコメントのしようが無かった。 「じゃあ、うん、部屋の片づけしよう」 見かけはがっくりとうなだれるだったが、畜生、絶対跪かせてやろう、とその内では濁ったものが渦巻いていた。 「ここね、君の部屋」 二人が目の前にするのは大きいが、しかしほこりをかぶった部屋。二つのベッドに大きな本棚がある。 「……汚い」 「そりゃまあ使ってないしだからこれかっておいぃぃいいぃい!」 ふと彼女が目をはなした隙に、修正は部屋のものを消しにかかっていた。が叫ぶと彼は不機嫌そうな顔で振り返った。 「なんだよ」 「ビークールビークール! おま、ちゃんといらないものいるもの分けるから待とうよ! ここね、両親の部屋なのよ。両親は長い宇宙旅行から帰ってきてないから汚いけど……」 不満そうな彼に、はまたもやため息。 「あー……分かった、とりあえず、なんか好きな本ある?」 「本?」 彼女は本棚を指差し「小説も図鑑も色々あるから」と付け加える。 「あったらここから持って行って読むなり、さっきの所でテレビ見るなり、寝るなり してていいから。終わったら呼ぶ。今日終わらなければこれは後回し。ソファで寝るから私のベッドで寝て」 は頭を抱え、うなるように言った。そんな彼女を見て修正は呆然としながらも本棚をざっと見て、数冊の本を手に取り部屋を出て行った。 「ご飯時になったら読んでもらえると嬉しいなー、とか」 「……」 その言葉の裏には「夕ご飯作っておいてね」という意味が込められている。しかしかれは何も言うことなくすたすたと廊下を歩いていってしまった。完全に彼の背中が見えなくなると、は部屋に向き直った。 「うーん、これは思ってたよりひどいな。どうやって埃を……まずは窓開けるか」 本日何回目となるかのため息が聞こえた。結局その日は完全に片付かず、彼女はソファで寝ることになったのだ。 |