はいくつも並ぶキーとウィンドウとを交互に見ながら作業をしていたが、視界にちらりと入り込んだ鮮やかなスカイブルーに目を惹かれ、彼女はふと顔を上げた。

 クロンデジゾイドの中でも希少で最軽量のブルーデジゾイド。その聖鎧を身にまとうのは。

「……アルフォースブイドラモン、だよね」

 記憶を頼りにその名前を呼べば、彼はぱっと笑顔になって、口を開いた。

「そうだよ覚えててくれたんだ嬉しいなあねえねえ本当にって呼んでも怒らないんだよねああそうだ俺のことはアルフォースブイドラモンじゃ長いからアルフォースって呼んでほしいな」

 聞く相手に息をつかせる暇をも持たせないまくしたてっぷり。いや、まくしたてると言うとどうも言い手が怒っているように聞こえるものの、決してそんなことはなく、彼はにこにこと笑顔を浮かべているのだが。

 しかしながらはその勢いに完全に圧倒され、ぽかんと口を開けて硬直していた。目もぱちぱちさせている。

 そんな彼女の異変に気付いたのか、話し終えてすっきりしていたアルフォースブイドラモンは「あれ?」との前で手を振るなどしていた。

「どうしたのイグドラシル。おーい」
「アルフォースブイドラモン……」

 呆れたように名を呼ばれて彼が振り返ってみれば、そこにはこめかみを押さえるロードナイトモンが立っていた。

「ロードナイトモン今さ俺イグドラシルとちゃんと話すの初めてだったから自己紹介しようと思ってさだからイグドラシルは名前で呼んでほしいって言ったから俺も堅苦しいの苦手だしアルフォースって呼んでもらおうと思ってそれで今から」
「ストップ! ……その肝心のがお前の会話スピードについていけていないではないか」

 そう言われて彼がの方を見ると、ようやく「ああ、うん、」と反応を示して見せた。

「ご、ごめんね、今やっと言われたことを全部処理し終えた……」
「ほら見てみろ」

 彼の早口はロイヤルナイツの中でも神速のスピードを持つという、彼自身の特性から来ているようだった。

「すいませんイグドラシル」

 しゅんとしてしまったアルフォースブイドラモンは、その体の大きさに反してまるで子供のようで、は思わず笑みをもらした。そんな彼女を、ロードナイトモンは不思議そうに見つめた。

「そんなに落ち込まないで。私は気にしてないから」

 うつむけたままの彼の顔を覗き込み、はその頬に手を伸ばした。

「それがあなたなら、私は否定しないよ。……ありのままの姿で私と接してくれてありがとう、『アルフォース』」

 アルフォース。彼が呼んでくれと言った名前。早口だったが、彼女はしっかりと聞いていたのだ。ただ、全てを把握するのに時間がかかるだけで。

 名を呼ばれたアルフォースブイドラモンはそのことに気付くとはっとしてを見つめた。彼女はそれと、と続ける。

「私は神イグドラシルである以前に。自分の名前を呼ばれて怒る人はいないよ」

 だから、「」って呼んで。そう言って彼女はゆるりと笑った。

 全てを受け入れるこの心の広さ。ああ、そこが彼女の神たる所以なのか。アルフォースブイドラモンはわずかに瞠目してから、ふ、といつもののんびりとした笑顔を浮かべた。

「これから宜しく、
「うん、こちらこそ、アルフォース」

 その二人の後ろで、ロードナイトモンは「ああ、やはりはなんと心の広い……!」と一人神を賛美していた。






Call my name.