確か彼はレジスタンスであった、はず。というのも、そのときの少女の記憶が曖昧なためである。 少女、はデジタルワールドの神として選ばれ、突如としてリアルワールドから招かれた人間である。自分の置かれた状況に困惑する彼女を迎え入れ、その守護についたのが、オメガモンを筆頭とする聖騎士団、ロイヤルナイツだった。 個性豊かな彼らは厳しくも温かく、それぞれがを支え、そのおかげもあって彼女が環境の変化に慣れるのにもそう時間はかからなかった。 神と守護者というよりは家族のようだと思いながら、彼女は毎日を穏やかに過ごしていた。 その前に何が起こったのか、ははっきりと覚えていない。その後の記憶ばかりが鮮明に焼きついてしまったのだ。 その記憶は、レジスタンスの彼が地へと伏していて、オメガモンがそれを見下ろしているところから始まる。今まで見たことのないオメガモンの姿に、はその場へへたり込んで動けないままでいた。 「愚かな真似を、ましてやイグドラシルの御前で」 忌まわしげに語りかけると、オメガモンはすっと左手を天へ掲げた。 「貴様に、イグドラシルの加護はない」 冷徹に吐き捨て、オメガモンはグレイソードを躊躇なく相手へと突き立てた。身が裂ける音と断末魔が不協和音となって響き、の耳をつんざく。 穢らわしい。ぶつぶつと、侮蔑の言葉を何度も吐きながら、オメガモンは引き抜いた剣を振り払うような仕草をしてそれを収めた。 「そうだろう、」 振り返ったオメガモンは、恍惚に表情を歪ませていた。自らの信念を成し遂げた愉悦か、あるいは。 は肯定も否定もできないまま、がたがたと震える身体を止めようとただぐっと自身を抱きしめた。恐怖を気取られぬよう、平静を装うとして口を開いたものの、まるで喉が締め付けられてしまったかのように、何の言葉も出てこない。 「ああ、どうか私を祝福してくれ、」 跪くオメガモンの向こう側で、ちりちりと分解をし始めている亡骸が目に入り、はぎゅっと目を瞑った。 (彼が殺めた。私の目の前で。何のために? そうか、彼は――) そのとき彼女はようやく、自身の責任の重さを思い知った。 神の御名において 2018/04/01 |