アトランダムに動かされるねずみの形をしたおもちゃを目で追いながら、ハックモンはどうしたものかと悩んでいた。

 ねずみから出ている紐をたどれば、動かしている張本人、がうずうずとした顔でハックモンを見ている。正座の状態から身を乗り出し手に持った棒を操っている彼女は、どうも前々から彼を猫だと思っているようで、今回はとうとう家から猫用のおもちゃを持ってきた。それを前に、自分は猫ではないと教えた方がいいのか、期待されているであろう反応をした方がいいのか、ハックモンは決めかねているというわけだ。

 とりあえず、とハックモンはねずみをとらえた。なんとも言えない気の抜ける感触だ。ちらりとの様子を伺えば、嬉しそうな彼女と視線がぶつかったものだから、ハックモンはあわてて下を向いた。間を持て余すようにねずみをつつきながら、次の言葉を探す。

、ひとついいか」
「うん、なんでしょう」

 手に持っていた棒を傍らに置くと、はにこにこと笑顔を浮かべ、足を崩して座り直した。

「念のため言っておくが、俺は猫じゃないぞ」
「だろうねえ」

 分かっていたのか。気を遣っていた分拍子抜けするハックモンをよそに、は続ける。

「猫はしゃべらないし。でも、猫っぽいからどうなるかなって」

つまり、の一連の行動はただの好奇心からくるものだった。

「それで、気は済んだか」

 にまんまと振り回されてしまった自身へ呆れながらもハックモンが問うと、からは、うーん、と煮え切らない返事が返ってくる。それを聞いて何やら思案しているらしく、ハックモンはしばし黙りこくっていたが、ふっと顔を上げた時にまたと視線があった。が、今度は逸らさなかった。

 それがなんとなく嬉しくて、ぱっと表情を明るくするだったが、次の瞬間、その視界には天井が広がっていた。

 いきなり飛びついてきたハックモンに、はその勢いを受け止めきれずひっくり返ったのだ。突然のことに驚き、天を仰ぎ見たままぽかんとしているの顔を、ハックモンが覗き込む。そして一声、「にゃあ」と発した。

「どうだ、これで満足したか」

 いつもと変わらない冷静な口ぶりとうってかわって、その赤い瞳は心なしか楽しそうだ。

 その一方で、半開きになった口をそのままに、はしばらくの間呆然としていた。あのハックモンが、まさか。同じ成長段階のアプモンの中でも彼は特別落ち着き払っていたし、これまでのの中での彼のイメージからしても、こんないたずらっぽいことをするとは想像がつかなかったのだ。

 はっと我にかえると、はハックモンの脇の下へ手を差し込み、彼を持ち上げつつ自分の体を起こすと、口を開いた。

「もしかして、どっちかっていうと犬っぽいのかな?」

 神妙な顔で言われた言葉に、ハックモンは目を丸くした。どっちでもない、の一言が、のどにつかえていた。




ぐるぐるにゃー
2017/09/30