空白の席の主こと、アルファモン。その彼が最近、ロイヤルナイツの面々の前に姿を現すことが多くなっていた。 「……また来たのか」 マグナモンが顔をしかめる程度に。 その唇でかたどる愛! 「いいだろ、俺だってここに入る資格くらいはあるんだ」 それはまさにその通りで、アルファモンはロイヤルナイツの一員。この聖域に入ることはまず何の問題もない。加えて、彼はのパートナーでもあったのだから、彼女にとってもその来訪は喜ばしく、拒む理由はない。 ただ、現在の状態を正しく言うのであれば、彼は今アルファモンではなく、ドルモンなのだが。 「なんでいつもわざわざ退化するんだ」 色々と苦いことを思い出すのか、マグナモンの声が段々と苛つきを帯びてくる。 「究極体を維持するのが面倒なんだ。それに、こっちの方が気楽で落ち着く」 確かに究極体でいるには力を使うのだが、彼の場合、それこそつい最近まではいつも幼年期の姿でいたくらい、ものぐさであるところが大きいだろう。 マグナモンをちらりと横目で見やり、自身に向けられたその刺々しい視線を受け流すと、当のドルモンはの横で丸まった。 「私も、こっちの方が慣れてるかな」 ふさふさとした彼の毛並や体温の温さは手になじむようで、は無意識に目を細めた。背をなでられたドルモンの尻尾は嬉しそうにゆらゆらと揺れる。 「それに、私たちドルちゃん・の仲だし」 さらり。平然と言ってのける己の主に、マグナモンは目を丸くした。ありえない!そう叫びそうになるのをぐっとこらえるのがやっとだった。 彼にとっては絶対的な主、イグドラシル。彼女は常々、名前で呼んでくれて構わないとロイヤルナイツの面々に言っているのだが、彼にはそのようなこと畏れ多くて到底できるはずがなく。 その上、のことを名前で呼ぶ他のロイヤルナイツとて、あだ名で呼ばれている者はいない(アルフォースブイドラモンは名前が長いので仕方ない、とマグナモンの中ではあだ名にカウントしていない)。 それを、こいつは! 「ねードルちゃん」 「なー」 わなわなとするマグナモンをよそに、ドルモンと顔を見合わせてはしゃいでいただったが、依然険しい顔のままのマグナモンを見てばつが悪くなってきたのか、おそるおそる彼の顔を覗き込んだ。 「冗談、だからね、マグナモン。今初めてドルちゃんって呼んだから」 「……は?」 「も無茶ぶりするよなあ」 「そう言うわりにドルモンものりのりだったけど」 そしてまたマイペース同士笑いあうものだから、良くも悪くも真面目なマグナモンはさっぱりついていけず、先ほどからただやきもきとしていたが、ついに我慢の限界を迎えてしまった。 「わ、悪ふざけもほどほどにしてください!」 その叫びに対し、まじめだなあ、とめんどくさそうにぼやいてひとあくび。ドルモンは丸まり直した。元凶は自身なのだが、マグナモンの苛つきは不思議と己の仲間であるはずのドルモンへと向かい、思わず「貴様、」と声がもれる。それが聞こえているのかいないのか、ドルモンからは静かな寝息が聞こえ始めていた。 「長いことこんな感じでふざけてたから、会うとついつい」 一方は、滅多に大きな声を出さないマグナモンに驚いてわずかに目を丸くしていたが、すぐに肩をすくめ、へらりとゆるい笑みを浮かべた。さっきまでは少しくらい悪いと思っていそうな様子だったのに、途端に悪びれる風もなくなってしまったのだ。 それでもマグナモンは、全ての原因である当の彼女に何も言えなかった。オメガモンやデュークモンならば、うまくたしなめられただろうか。彼の頭を何と無しにそんな考えがよぎる。 「ごめんね、マグちゃん」 笑いながら謝られても――いや、待てよ。突然のことに、マグナモンは思考が一瞬止まった。『マグちゃん』。確かに、そう、言ったのだ。誰が? 我が主が。誰に? 自分に! ゆっくり整理しても、心がまるで追いつけない。 マグナモンのそういうところ、大好き。からそう続けられた言葉は、みるみるうちに真っ赤になっていく彼にはまともに届かなかった。 2015/12/12 |