「いつから気づいてた?なんて聞くのは野暮か」 自嘲気味にそう切り出したのはアルファモンだった。へ向けられた瞳は鋭く、面識のない者であればひるんでしまうだろう。だが彼女は違う。身じろぐことなく、依然表情を曇らせたまま、いつからだろうね、と小さく答える。 「最初はまさかと思ったよ、でも私には……」 「さすがだよ、なんでもお見通しだ」 それまでぴんと張りつめていた空気をときほぐす、愛しさと愁いが交じりあったその優しい声に、は喉元からこみあげる熱さをこらえた。何もかも、間違いであればどれだけよかっただろう。 二人の間には、神とロイヤルナイツという関係を超え、一言では語りつくせないほどの深いつながりがある。だからこそ彼女には、彼が成そうとしていることが分かってしまい、それを信じきれずにいた。 「理由を教えて」 「他ならないデジタルワールドのためさ」 それを聞いたはそれまで寄せていた眉根をふっと開くと、うって変わってどこか清々しい笑みを口もとに浮かべた。 「やっぱりアルファモンはアルファモンだね」 彼女の言葉に驚きで目を丸くするアルファモンをよそに、は続ける。 「私はアルファモンと一緒だよ。この世界を守りたい。それが使命だと思ってここまで来たんだから、そのためなら――」 いやに落ち着き払った様子で、はアルファモンに向かって両腕を広げた。いやな予感がした。それだけはだめだ!彼が遮るより先に、の口が開く。 「アルファモンになら、いいよ」 「!!」 たまらずアルファモンがその名を呼ぶと、は、し、と人差し指を自らの唇の前に立てる。 「大丈夫、私たちならやれる」 こうなることが予測できなかったといえば嘘になる。彼女は全てを救わんために自身を捧げるひとだ。彼女の代わりに世界を壊すと決めたところで同じだろう。だからこそアルファモンはひとりで計画を進めてきたのだった。彼女の口から言わせてしまうよりかは、自分一人が裏切り者として恨まれるほうがいい。なのに、結局こうなってしまうのか。 アルファモン、と悲嘆するでも責めるでもなく、いつもと変わらない声で呼びかけると、は彼の手を取り自らの胸へとあてがった。指先から伝わる静かな鼓動は彼を満たすとノイズを取り払い、その心を落ち着かせていく。海からの音をふたりでじっと聞いていたあの夜を思い出す。心地よくて、いつまでもそうしていたくて……。 「いつもごめんね、私はいつまでもアルファモンと一緒だよ」 アルファモンは、導かれるようにを貫いた。 イグドラシルが消失したというただならぬ事態に、他のロイヤルナイツが気づかないはずがなかったが、彼らが駆けつけたときには既に、イグドラシル――はデータのかけらすら残っておらず、何が起こったのか、呆然と立ち尽くすアルファモンの姿で全てを悟るほかなかった。 「貴様、自分が何をしたのか分かっているのか!?」 「分かっているさ」 詰問に対し淡々と返すと、「これでよかったんだ」と誰にも聞こえない声で呟き、アルファモンはゆらりと顔を上げる。 「いくらでも憎むがいい、嘲るがいい」 「正気とは思えんな」 一様に顔をしかめている彼らにとって、アルファモンはもはや道義を外れた者にすぎない。四方から浴びせられる冷ややかな蔑みの眼差しも敵意も、しかし、今の彼には怖るるに足らなかった。 「、ひかりなる救い主、俺の心を照らす者、俺の、きみが俺の中で生き続ける限り、俺はこの世のどんな罪咎憂いをも背負おう、ハレルヤ!」 祈りを捧げるかのごとく高らかに叫び、アルファモンは向かい来るかつての仲間へと刃を構えた。 いつくしみ深き 2020/07/18 |