世界樹のコアにいたのはイグドラシルの 、ロイヤルナイツであるマグナモンとデュナスモンの三名だった。
 はふと手を止め、マグナモンをじっと見つめはじめた。勿論彼にはそれが居心地悪く、横目で彼女を見やっていたが、ついに口を開いた。

「イグドラシル、その、何か用でしょうか」

 その言葉には楽しそうな表情を浮かべるとこう言った。

「マグナモンはぴかぴかだよね」




stargaze




「へ? はあ……」

 意外な発言に、マグナモンはあぜんとして、思わず自分の装甲を見る。超金属、クロンデジゾイドでできたそれはたしかに金色。だがやはり彼女の発言は唐突過ぎる。

「うん、星みたい」
「星……ですか」

 そう言うとは何かにひらめいたようで、あ! と声を上げる。そして嬉しそうにマグナモンの顔を見上げて口を開いた。

「星見に行こうよ! 今丁度いい頃じゃない?」
「今から? 仕事は無いのですか?」

 大丈夫! といった彼女は、はしゃぎながらデュナスモンの元へと行くと、一言二言交わすだけですぐに戻ってきて、そのまま「ほら!」とマグナモンの手をぐいぐいと引っ張った。

「日没ちょっと前がいいんだよ! 早く行かないと!」

 彼がうなずく前に、は外に向かって走り出した。


「うっわあー! やっぱりきれいだね!」

 ほらほら、とはマグナモンの手を引き、もう片方で夜空に瞬く星を指差す。

「あ! ねえねえ、もうちょっと近くまで行ってみようよ!」
「イグドラシル、飛べるのですか?」

 頬を紅潮させる彼女だったが、その言葉を聴いた途端にその表情は曇る。そして、自身に言い聞かせるように「そうだ、私飛べないんだった……」とつぶやいた。
 がっかりしているの様子を見て、マグナモンは遠慮がちに口を開いた。

「宜しければ、俺が乗せていきましょうか」

 は満面の笑みで彼に抱きついた。



「うわあ……」

 感嘆の声を漏らす自身の主につれて、マグナモンも夜空を仰ぎ見た。

「……きれい、ですね」
「届きそうだよね」

 まあ届かないんだけどね、と笑って、は星空に伸ばした手をすぐに引っ込める。

「いいや、星みたいなマグナモンがいてくれるなら」

 どんなことを言うかと思いきや、飛び出てきたのはその言葉。今日は彼のペースが狂うばかりだ。その一方のはまた夜空を仰ぐと、「あ」と小さく声を上げた。
 何か起こったのかと彼女を見るのだが、ただ目を瞑るだけで、マグナモンは空ととを交互に見た。

「願い事! 流れ星って、願い事を叶えてくれるらしくってね」

 目を開いたがぱっと笑って、「流れる間に三回願い事を言うんだよ」と言うと、マグナモンは目を見開いて驚いた。

「すごいですね! どういう仕組みなんですか、イグドラシル!」

 興奮気味にたずねてくる彼だったが、所詮そんなのは人間界特有の迷信である。は答えにつまり、「あー、え、っと……」と言いよどみながら、ようやくのことで口を開いた。

「あ、あの、迷信って言うか、占いって言うか……」

 いざ言ってみるとやはり申し訳なくなって、はまた口ごもる。ちらりと見てみるとマグナモンは残念そうな表情だ。するとふと、彼女は何かを思いついたのか、「あ、でもね」と話を続ける。

「迷信に頼りたくなるほど、星に祈りたくなるほど、かなえたい願いがあるんだよ。困ったときの神頼み、ってやつに似てるかなあ」
「……『神』、が?」
「あ……」

 自分が神なのに、「神頼み」。自分が自分に祈るなんて、おかしなことだった。とマグナモンは顔を見合わせると、二人で声を上げて笑った。

「そう言えば、そうだった!」
「そこまでして叶えたい願いって何ですか、イグドラシル」

 彼女は笑い涙を手の甲で軽くぬぐうと、「内緒」と言って苦笑して、また空を見た。

「……もうそろそろ、皆が帰ってくるね。私がいないと心配かけちゃうし、帰ろうか」
「そうですね、あいつらは心配性だから」

 特にオメガモンとデュークモンが、と付け加えると、はくすりと笑った。


 ゆっくりと下降していき、世界樹はまた大きく目の前にそびえる。はそれをゆるりと見やると、「マグナモン」と小さく呼んだ。

「なんですか、イグドラシル?」
「本当にありがとう、わがままをきいてくれて」

 そして、ぎゅう、と首周りに抱きつく。マグナモンは硬直して息を呑んだ。その時間は長かったか短かったか。腕を解くとはまたにこりと笑って「さ、帰ろう」と言った。


(ずっと皆と一緒にいられますように!)


「取ってきましょうか」ってまじめに言うシーンも考えてたのですが。
下をさらに反転するとおまけ。


「今度は月に行ってみる?」

 皆のいないときにさ、と期待のこもった目で言うに、マグナモンは「暇なときに」とあいまいに返した。

(ロイヤルナイツとして、こういうときは素直に喜んでいいのか? 公私混同……か?)

07/05/02