あの頃語っていた夢は

「このデジタルワールドにとっての一番の危険因子は何? 七大魔王? レジスタンス組織?」

 はロイヤルナイツをぐるりと見渡し、問いかけるように話していく。答えが挙がらないのを確認して
、彼女は「それはデジタルワールドには存在しない」と低い声で告げた。どういうことか、と周りが尋ねる前に、は更に口を開く。

「答えはリアルワールド。もはや共存なんて理想論、通用しない」

 胸元に構えられていた彼女の手がひゅんと空を切り裂く。その目では冷たい炎が燃えていた。

「リアルワールドを、浄化する」

 再び起こるノア。それを止められるものはどこにもいなかった。

(どこで、は変わってしまったのか。かつての彼女はどこへ行ってしまったのか。けれども我々の忠誠は、が善であろうと悪であろうと変わりはしない)


*


死に至る病

 は確実に狂い始めていた。どこが、とはっきり言えないが、おかしくなるのだ。言うなればそれは狂気。
 狂気が深淵からその姿を現すのは初め、ほんのわずかだった。しかしそれはゆっくり、ゆっくりと彼女を蝕んでいたのだ。

「神であろうと神性であろうと、ヒトの器である以上、こんな長い時間正気のままでいられるわけがないだろう?」

 狂気はそう言って笑った。
 しかし、この狂気に苦しんでいたのは他ならぬ彼女自身であった。

「お願い、私が正気である内に、私を消去して」

 泣きすがるの姿は痛々しかった。それでも、彼女を我々の手にかけることなど、とうていできはしないのだ。できない。できるはずが、ない。 

「じゃないと、デジタルワールドが、また混沌へと沈んでしまう」

 こんな時でさえ、自分のことよりも世界のことを気遣う彼女が、がなぜ苦しまねばならないのか。苦しみから救ってやるには消去しかないのか。

「お願い」

 くぐもった声で懇願の言葉を口にされ、我々は己の非力さを嘆いた。